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金教授が果実袋に着目したのは約1年前。ブドウ畑で袋掛けを行う農家の姿を目にしたことがきっかけでした。「何をしているのだろう?と疑問に思い、農家の方に声をかけ直接話を聞き、袋掛けの意味や目的はもちろん、ついでに課題があることも知りました」(金教授)。その場で果実袋を1枚譲ってもらい、ナノファイバーが活用できないか検討を始めたそうです。その製品の通気性を調べ、農業系の論文も読みながら、半年ほどかけサンプルを開発。コストをできる限り抑えるため、ナノファイバーの最適領域も検討し、現在の形に落ち着きました。現在1枚のコストは旧来の紙製と比較すると約2倍の10円程度。「従来製品と比較すると若干コストはかかるかもしれません。しかし、栽培試験の結果からも分かるように、食味の向上や病害虫の減少などの効果を考えると、メリットも大きい。ブランド価値をさらに向上させる可能性があるため、1房1,000円以上の値で取引されるブドウは特に、収益性の面でも効果が期待できると考えています」(金教授)。ナノファイバー果実袋をさまざまな条件下で効果を検証するため、2021年も栽培試験を継続、2022年には本格的な市場投入を考えたいとのこと。「実際の農家の方々に使ってもらうためには、栽培試験の結果が重要です。1年間の試験ではまだまだ足りない部分もあるので、2021年は10万房の試験を目指したい。さらに細かく条件を分け、長野県だけではなく全国に広げ各地域の風土や気温による総合的な検証の必要があると考えています」(金教授)。日本と並行して、果樹栽培が盛んな中国や韓国でも栽培試験が行われており、世界的な需要の拡大も見込んでいます。大量生産体制が確立すれば、価格の圧縮にもつながります。今後は、総合大学の強みを活かして農学部とも協力しながらより正確なデータを蓄積し、モモやナシなど、他の果実での応用も目指します。さまざまな応用ができるのも、金教授が世界で初めて開発したナノファイバーの大量生産方式の存在が大きく影響しています。金教授は、2008年にプラントが設置されて以来、さまざまなメーカーと共同研究を進めてきました。その高い機能性は、各業界から熱い視線が注がれており、すでに「ザ・ノース・フェイス」や「ナイキ」といった大手スポーツ用品メーカーとの共同開発によってテントやジャケット、シューズなどでの実用化が実現しています。ナノファイバーは既存技術を置き換え、新しい常識をつくりだす可能性を秘めています。今回開発された果実袋も、遠くない将来、もしかしたら果樹栽培の常識となっているかもしれません。2020年10月6日、長野県庁での記者会見の様子。本邦初公開、果実袋の他、ナノファイバーが採用された各種製品の展示ルーム。ノースフェイスやナイキなど有名ブランドがズラリと並ぶ。こちらの特集はまた次回以降に。ナノファイバー研究を行う先鋭領域融合研究群国際ファイバー工学研究拠点/繊維学部機械・ロボット学科の金翼水(キムイクス)教授は、2020年10月、ナノファイバー不織布を使った「ブドウ用果実袋」を発表、記者会見を行いました。ナノファイバーという言葉をご存知の方もおられると思いますが、1本の太さが100nm(ナノメートル)以下、髪の毛の約500分の1という超極細繊維で、マスクやアウトドア用品、車両用部品などに使われ、次々と実用化が進んでいます。そして、今回は異色ともいえる農業分野での活用法が実現。旧来、形や機能が変わらない製品が長く市場を占有することの多い農業資材業界で、新たな展開をみせています。(文・柳澤 愛由)ナノファイバー製品が産業分野を超えたニューノーマルを創る!?果樹産地の長野県。高級ブドウにさらなるブランド価値を12

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