果実袋とは、ブドウやナシなどの果樹栽培で使われる農業用資材です。病害虫の発生予防、傷や日焼けの防止、風雨からの保護、着色管理などを目的に、果実ひとつひとつに掛けられます。しかし、従来の果実袋はほとんどが紙製。通気性が低く、湿度が高い状態で掛けると内部が蒸れ、逆に病気を誘発したり、空気を通すための通気孔から害虫が入り込み被害が増大したりするケースもありました。金翼水教授は、こうした課題を解決するため片面の一部をナノファイバー不織布に置き換えたブドウ用果実袋を開発しました。「従来の果実袋にナノファイバー製の窓ができた、とイメージをしてもらえればいいと思います。通気性は従来の製品と比較すると約50倍と格段に向上しています」(金教授)。ナノファイバーは、1本の太さが100nm程度の超極細繊維。不織布にすると超微細な空洞が無数にでき、空気は通しても分子の大きな水などは通さない、特殊な素材をつくることができます。その特性を応用することで、高い通気性と防水性を併せ持った果実袋の開発を可能にしました。栽培試験でも高い成果が得られています。試験には、ブドウの産地、長野県中野市を管轄するJA中野市が協力しました。高級ブドウとして人気の高いシャインマスカット、ナガノパープル各1,000房、合計2,000房を対象にして、通常の袋掛けと同様に、7月下旬から9月までナノファイバー果実袋を掛けて栽培。収穫後、従来の紙製袋を掛けた果実と比較しました。結果、1粒当たりの重量が平均して8%ほど増加。食感の良さを左右する果実の硬さは、シャインマスカットで約14%向上していました。また、ナガノパープルで発生しやすいひび割れ(裂果)は約14%低下。糖度の向上も見られました。果実の糖度や品質は、昼夜の寒暖差にも影響されます。長野県は昼夜の寒暖差が大きく、日中に蓄えられた糖分が気温の低い夜間に消費されにくいため、果実がより甘く育つとされています。ナノファイバー果実袋は通気性が良く、袋内部の温度も外気温と同じように下がるので、糖度や品質に影響を与えたと考えられます。また、通気性の向上で、病害虫の発生も大きく抑えられていました。「長野県は果物の栽培が盛ん。私自身、栽培試験を通して、改めて長野県産ブドウのおいしさを実感しました。農業は身近な産業です。今回はビジネスというより、ナノファイバーで日本農業そのもののランクアップに貢献したい。そう考えています」(金教授)。農業分野に展開!ナノファイバー不織布の果実袋。通気性を増し、糖度もアップし、果肉も硬くなり食感アップ、いいことづくめのナノファイバー不織布果実袋を発表!信州大学先鋭領域融合研究群国際ファイバー工学研究拠点 金翼水教授果樹産地信州発!高級ブドウにさらなるブランド価値をナノファイバー素材を用いた果実袋2種。緑の袋は日光を通し色味が良くなるのでシャインマスカットなどに、白の袋は日光を通さないのでナガノパープルのように黒っぽい果実に向いている。→手に持つのはナノファイバー素材を用いた果実袋。縦の帯がナノファイバーになっている。果樹栽培に革命!ナノファイバー不織布の“窓”がある果実袋を開発信州大学先鋭領域融合研究群国際ファイバー工学研究拠点金 翼水 学術研究院(繊維学系)教授PROFLE2000年名古屋大学大学院工学研究科物質制御工学専攻(博士課程)修了。2003年信州大学に着任。韓国ソウル大学招聘教授、中国蘇州大学Visiting distinguished professor。2015年ライジングスター教員などを経て、2018年より現職。11
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