クロモジは日本各地の山地に自生し、黒い斑点を持つ灰色の樹皮が特徴の低木です。枝葉には柑橘にも似た特有のさわやかな香りがあり、高級楊枝や生薬の原材料として重用されてきました。胃腸のバランスを整えたり、高ぶった神経を鎮めたりする作用が確認されており、長野県生まれの薬用酒「養命酒」にも、クロモジの枝を乾燥させた「烏樟」が生薬として最も多く配合されています。2020年10月、信州大学農学部河原岳志准教授と養命酒製造(株)の共同研究により、クロモジエキスにインフルエンザの感染予防効果があることが明らかとなりました。クロモジエキスが作用するのは感染の初期段階。インフルエンザウイルスは主に鼻腔から喉頭までの上気道の粘膜上皮細胞表面に吸着して細胞内部へ侵入し、そこで増殖を繰り返し周囲の細胞や組織に広がることで感染症状を引き起こします。(図2)そのためインフルエンザ予防は、ウイルスが細胞に入ろうとする初期段階での対処が鉄則。今回、この「吸着」と「侵入」をブロックする効果が、クロモジエキスに認められたのです。河原准教授との共同研究に取り組んだのは、養命酒製造(株)商品開発センター主任研究員の芦部文一朗さん。「クロモジは養命酒の歴史と共に長年当社がメインで扱ってきた素材であり、日本特有の利用がなされてきた生薬です。生薬研究が盛ん国産ハーブ「クロモジ」がインフルエンザウイルスを99.5%ブロックするという新事実。以上養命酒の主原料でもある「クロモジ」から見出された抗インフルという驚きの機能性国産ハーブクロモジの抗インフルエンザウイルス作用メカニズムを解明:信州大学農学部 河原岳志准教授×養命酒製造日本の低山などに自生する「クロモジ」はクスノキ科の落葉低木で高級楊枝の材料のほか、古くから生薬の原料としても重用されてきました。また、長野県で生まれた薬用酒「薬用養命酒」(以下養命酒)の主原料にもなっています。信州大学農学部の河原岳志准教授は、養命酒の製造元である養命酒製造(株)との共同研究でクロモジの機能性評価を行いました。その結果、新たに分かったのが「クロモジはインフルエンザウイルスの細胞への吸着と侵入を99.5%以上ブロックする」という驚きの事実。「ウイルス感染」というキーワードが世界中で飛び交った2020年、日本独自の伝統的国産ハーブ「クロモジ」から発見された新たな機能性に注目が集まっています。(文・柳澤 愛由)PROFILE1998年九州大学農学研究科修了。2002年同大学生物資源環境科学研究科にて博士(農学)の学位を取得。同年4月信州大学農学研究科助手。2006年同大学大学院農学研究科助教。2015年より現職。河原 岳志信州大学学術研究院(農学系)准教授(図2)❶の「細胞に入れない」ところでクロモジがウイルスの吸着・侵入をブロックするため、感染予防に有効なのがわかる。医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター國澤純センター長作成ウイルスの感染・増殖プロセスと対策ポイント赤く見えるのは細胞表面に吸着したウイルス(左)。クロモジエキスが細胞へのウイルス吸着を抑えたことがわかる(右)。取材の様子。手前は養命酒製造執行役員、クロモジ推進室フェローの丸山徹也氏。取材の段取りなどをご手配いただいた。芦部 文一朗 氏養命酒製造株式会社商品開発センター主任研究員 博士(薬学)う しょう(図1)細胞表面のウイルス吸着を確認クロモジエキスなしクロモジエキスあり09
元のページ ../index.html#10