信大医学部医学科研究紹介2020(日本語版)
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37生命誕生から終末期に至るまで研究・診療内容の概要産婦人科は周産期、婦人科腫瘍、生殖・内分泌といった、3大専門分野をもち、さらに女性のヘルスケアを加えた主に4分野からなる幅広い学問分野を有します(図1参照)。産科婦人科学は、生命の誕生から終末期に至るまで、女性を生涯にわたってサポートしようという学問体系であり、またこれを臨床現場において実践していく診療分野です。女性特有の臓器である子宮や卵巣は、その生涯において劇的に変化します。妊娠や出産は最も劇的な変化であり、ここでは正常と異常がいつも背中合わせです。このような女性特有の変化および疾患を理解し、上記の産婦人科学問分野に加えて、発生学、病理診断学、画像診断学等を駆使して診療を行っています。医療は急速に進歩しておりますが、未だ解決されない問題が数多く存在します。女性生殖器癌の内、特に子宮内膜癌や卵巣癌は罹患数・死亡数ともに急速に増加しており、発症・進行のメカニズム解明とそれによる新規治療法や予防法の開発は、大きな課題であります。また我が国は周産期医療の進歩により、世界で最も安心して出産できる国になっておりますが、妊娠予後に大きく作用する妊娠高血圧症候群や胎児発育不全の発症メカニズムの解明も不十分なままです。体外受精胚移植など、生殖補助医療の進歩はめざましいものがありますが、染色体異常の発生率の増加など、今後clearすべき課題は山積しております。また、未だに受精卵の着床のメカニズムは十分には解明されていません。私達は、これらの問題点を課題として、各研究班で研究に取り組んでおります。【教授名】塩沢 丹里(シオザワ タンリ)【疾患班名】1.婦人科腫瘍班2.周産期・胎盤班3.生殖・内分泌班産科婦人科学産科婦人科学教授:塩沢丹里教室メンバー治したい!私達は新しい治療を目指して研究します婦人科腫瘍 班婦人科腫瘍 班(チーフ:准教授 宮本 強)(チーフ:准教授 宮本 強)産科婦人科学子宮内膜癌および子宮内膜症に関連して発生する卵巣癌の遺伝子的および生物学的な解明を目的として研究を行っています。これまで長寿遺伝子として注目されていたSIRT1や鉄イオン運搬に係るLCN2が子宮内膜癌や卵巣癌の抗がん剤耐性を高め、癌の発生や進行に促進的に作用することを見出し、これらを標的とした新規治療法を開発すべく研究を続けています。また、従来は発癌促進的に働くとされるエストロゲンが、発癌抑制的に働く研究結果を発表するなど、斬新な研究に日々、取り組んでいます。さらに、予後不良で早期診断困難な子宮頸部悪性腺腫(MDA)と、類似する良性病変である分葉状頸管腺過形成(LEGH)との関係を明らかにし、術前鑑別診断法、早期診断法を確立すべく基礎および臨床研究を重ねており、世界をリードしています。・婦人科癌における長寿遺伝子SIRT1の機能とSIRT1阻害薬の有効性の検討・卵巣明細胞癌のLCN2による酸化ストレス耐性機序の解明と治療法の開発・子宮内膜癌に対する抗サイクリンA分子標的薬開発・子宮内膜癌妊孕能温存治療のためのMPA、HDAC阻害剤併用効果の検討・分葉状子宮頸管腺過形成(LEGH)の自然史と悪性化に関わる因子の探索子宮内膜癌、卵巣癌患者は急速に増加しており、死亡数も年々増加しています。またこれらの癌は比較的若年に好発することから、妊娠可能年齢での発生も増加しており、罹患による妊孕能喪失も大きな問題です。私達はこれらの発生過程を研究・理解することにより、新しい予防法や治療法の開発に繋げたいと考えています。そしてこれらの癌の発生率低下、治癒率向上だけでなく、確実な妊孕能温存が可能になることを目指しています。 大学病院で医師として研鑽しながら研究を続けることができます。また、米国Johns Hopkins大学などへの海外留学や国内の他の研究機関への留学実績もあり、積極的に支援しています。主な研究テーマ研究から広がる未来卒業後の未来像【婦人科腫瘍斑メンバー】楽しく研究しています【卵巣明細胞癌のLCN2免疫染色写真】強陽性を示すsiRNAによるSIRT1ノックダウンは卵巣明細胞癌細胞株ES2の増殖能を低下させた(Transl Oncol. 2017; 10: 621-631.Fig.2より抜粋)

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