環境報告書2020
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■廃棄物を処理しながらエネルギーを得る錦織教授の研究室では、光化学を基盤に環境浄化や廃棄物を利用したエネルギーの開発などに取り組んでいる。これまでに企業との共同開発で、細菌の分解速度、抗菌効果を向上させた高性能の光触媒を生み出し、銀行ATMのタッチパネルなどに使われている。現在の主要テーマの一つが、光燃料電池の開発だ。燃料電池といえば、水素を燃料に走る燃料電池車などがあるが、研究テーマの光燃料電池は、農畜産業や食品工場等から出される動植物由来の有機廃棄物を燃料にしたもの。光触媒(酸化チタン)が有機廃棄物を酸化分解しながら、電力を発生させるという、浄化(廃棄物処理)と創エネ、一石二鳥の発電装置になる。(図1)。■光触媒の性能を上げる吸着剤の開発研究上の最も大きな課題は、光触媒の分解効率を高めることにある。光燃料電池の電極基板に焼きつけられた酸化チタンは、水溶液に溶けた有機物を分解する。しかし有機物を吸着する力が弱いために、分解反応は、なかなか進まない。教授は吸着力を持つ物質を酸化チタンの表面に付着させて、分解効率を高めることを考えた。選ばれたのは粘土鉱物アロフェン。調湿機能があり、家屋の壁材にも使われる天然鉱物で、比較的安価で入手しやすい。図2のように、酸化チタンが受ける光をできるだけ妨げないよう少量のアロフェンの微粒子を付着させると、発電効率(光電流発生効率)は約1.5倍にまで引き上げられた。しかし塊になりやすいアロフェンを均一に最適な量を付着させることは容易ではなく、別のタイプの吸着剤としてシリカに注目。酸化チタン分子の表面の一部にシリカの微粒子を直接生成させる方法を成功させ、発電効率を約2倍にした。■水に溶けない粒子でも発電可能!次に取り組んだのは、セルロース(植物性繊維の主成分)の問題。実験では燃料の有機廃棄物の代わりに、水溶性のブドウ糖やデンプンを使っていたが、実際の廃棄物は、水に溶けないセルロースが多い。固体の大きな粒子のままでも分解は可能なのか。研究室では、特殊な溶媒でセルロースを溶かしたものを電極の酸化チタンに塗って乾かし、セルロースの微粒子が析出した膜を作った。結果、膜状のセルロースは分解され、発電することができた。大きめの固体の粒子でも分子レベルでぴたりと吸着さえすれば反応する。燃料は、必ずしも水溶性でなくてもできることがわかった。■水素燃料の回収も可能な光燃料電池光燃料電池は発電システムだが、教授は、発電よりも水素燃料を取り出せる装置に発展させようとしている。現在は有機廃棄物を分解して出てきた水素イオンは、酸素と反応させて水になるが、ここに酸素がなければ、水素分子として取り出すこともできる。水分解よりも低いエネルギーで、より多くの水素を取り出すことができる。原理的にも十分に実現可能なシステムで、課題はやはり反応効率を高めることにある。そのために重要なのは酸化チタンに「吸着させること」で、表面を吸着しやすいようにする、あるいは、光触媒や吸着剤をあらたに開発する可能性もある。そして、さらに「熱と光を両方とも使う発電の方法」にすることも考えているという。教授の最終的な目標は「太陽光のエネルギーを余すところなく有効に使う」ことなのだ。錦織 広昌1999年 信州大学大学院工学系研究科修了1999年  名古屋大学高温エネルギー変換研究 センター 講師(研究機関研究員)2000年 信州大学工学部助手2006~2007年  ジョージア工科大学客員研究員(兼任)2007年 信州大学工学部助教2010年 信州大学工学部准教授2015年 信州大学工学部教授学術研究院(工学系)教授錦織 広昌 [工学部 物質化学科]02環境への取り組み光燃料電池で有機廃棄物を分解処理し、エネルギーを得る2-2 環境研究図1酸化チタン電極を用いた光燃料電池図2 酸化チタンにアロフェンを付加したイメージ26

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