信州大学統合報告書2020
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ビジョンと経営戦略活動実績ガバナンス人と地域の資産財政情報02活動実績研究TOPICS 1METHODTOPICS 2「CAR-T細胞療法」は、がん患者の免疫細胞の機能を人工的に高め、がんへの攻撃力を強化する新しいがん治療法です。手術・抗がん剤・放射線治療といった、これまでのがん治療とは異なる選択肢として欧米を中心に研究が進んできました。治療法が限られる小児がんや難治性がんなどに対する切り札としても、注目されています。その中でも、医学部小児医学教室の中沢洋三教授が開発した「非ウイルス遺伝子改変CAR-T細胞療法」は、CAR-T「非ウイルス型CAR-T細胞療法」が難治性がんの子どもたちを救う細胞をつくる際に従来使われてきたウイルスベクター(※1)ではなく、「酵素」を用いる世界初の治療法です。薬価が高額になりがちなCAR-T細胞の製造コストを大幅に削減し、より安全、安価に提供できる治療法として、国内外から期待が寄せられています。中沢教授は、これまで対象とされてこなかった疾患に対するCAR-T細胞の独自開発にも取り組んでいます。信州大学で開発、医学部附属病院で製造した薬を当院の患者に投与し臨床試験ができるという、創薬分野ではきわめて珍しいオールインワン型のチームで研究開発を進めています。がん治療の新たな選択肢、信州大学発CAR-T細胞療法「非ウイルス遺伝子改変CAR-T細胞療法」は難治性がんの治療に新たな希望を与える、世界初の治療法非ウイルス遺伝子改変CAR-T細胞療法を開発した信州大学医学部の中沢洋三教授。小児科医としてがんと闘う子どもたちをずっと診てきた。CAR-T細胞は、まず、体内に備わっている免疫細胞の一種「T細胞」(※2)をがん患者から採取し、そこへがん細胞の目印(抗原)を発見する機能を高めた特殊なたんぱく質「CAR(キメラ抗原受容体)」遺伝子を導入、体外で増幅・培養してつくられます。そのCAR-T細胞を患者の体内に戻し、がん細胞を攻撃して治療します。「非ウイルス遺伝子改変CAR-T細胞療法」では、CAR遺伝子導入時に、ウイルスベクターではなく「piggyBac(遺伝子転位酵素)トランスポゾン法」というアオムシ由来の「酵素」を使った遺伝子導入法を用います。すでに臨床試験目前という段階にまで至っています。信州大学遺伝子・細胞治療研究開発センター長信州大学医学部小児医学教室教授中沢 洋三(株)東芝との共同研究では、がん遺伝子治療への応用を想定した「がん指向性リポソーム技術」を開発。東芝独自のナノサイズのカプセルである生分解性リポソームに、治療遺伝子を内包し、標的となる細胞に正確かつ高効率に運ぶ技術です。従来用いられてきたウイルスに代わる治療遺伝子のベクターであり、CAR-T細胞療法ではカバーしきれない疾患に対するがん遺伝子治療への応用を想定しています。がん指向性リポソームによるがん遺伝子治療技術を東芝と共同開発2020年4月、CAR-T細胞療法の事業化に向け、バイオベンチャー(株)A-SEEDSが立ち上がりました。医療経済的にも優れた「非ウイルス遺伝子改変CAR-T細胞療法」の事業化が実現すれば、がん治療の歴史にパラダイムシフトを起こすほどのインパクトとなりますが、初期開発だけで億単位の費用がかかります。A-SEEDSは、中沢教授の保有する知財関連の権利を引き継ぎ、まずはGMR CAR-Tの臨床応用に向けた資金調達を担います。信州大学発バイオベンチャーA-SEEDSが事業化を加速するウイルスベクターを使わない画期的なCAR-T細胞療法(※1)遺伝子を細胞内に導入するためのベクター(運び屋)となるウイルス。遺伝子操作により複製および増殖能を欠損させたウイルスや、複製・増殖能の一部を保持したウイルスを使う。(※2)リンパ球の一種。がん細胞を攻撃し死滅させる性質がある。モニターはがん細胞の画像( 研究室にて)Integrated Report 2020 Shinshu University23CAR-T細胞療法は有効な治療法のない、様々ながんに治療に期待されています。

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