信州大学統合報告書2020
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Shinshu UniversityIntegrated Report 2020PRODUCTSTOPICS世界の水問題を解決するアクア・イノベーション拠点(COI)海水や不純物を含む水など多様な水源から、飲料水や生活・農業・工業用水など“使える水”を造り出し、健全な水循環社会の実現により、世界中の人々の生活の質(QOL)向上に貢献地球上で人類が利用可能な淡水源は、全体のわずか0.01%に過ぎません。アクア・イノベーション拠点は、海水をはじめとする多様な水源から使える水を造り循環させる「革新的な造水・水循環システム」の構築により、安全で豊かな生活を支える水循環社会を実現し、世界中の人々の生活の質向上に寄与します。アクア・イノベーション拠点は、「人が変わる。社会が変わる。新しい未来を作りたい。」がコンセプトの国家プロジェクト「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の拠点の一つです。社会のあるべき姿を出発点として取り組むべき課題を設定するバックバックキャスト型アプローチで世界の水問題に挑むキャスト型アプローチにより、「世界中の誰もが十分な水を手に入れられる社会」の実現を目指して2013年にスタートしました。研究開発のメインストリームは、信州大学の遠藤守信特別栄誉教授を研究リーダーとしたナノカーボン材料技術を応用した革新的な水処理膜「ナノカーボン逆浸透(RO)膜」の開発です。また、低圧高透水ROモジュールを構成し、POU (Point of Use) 浄水システムの開発も進んでいます。一方、革新的無機結晶材料「信大クリスタル(※)」を応用した浄水器の開発は発展途上国における適用が進められており、総合的な「造水・水循環システム」の確立により、「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に貢献します。ウォータープラザ北九州(北九州市内)に設置されたパイロット試験設備では、「ナノカーボンRO膜」を用いた海水淡水化システムの実用化に向けた実証実験が行われています。ナノカーボン膜モジュールで実際の海水を処理し、膜の性能や運用コストなどを検証しています。開発膜のロバスト(頑強)性を生かした実装方法を検討し、海水淡水化のみならず、下排水の再生、超純水製造を対象とした実証試験を行い、社会実装を目指します。触媒化学気相成長法によりカーボンナノチューブ(CNT)の存在とその成長モデルを世界で初めて解明した世界的な研究者。基礎科学から応用にいたる広範な実績は国際的に高く評価されています。研究リーダー信州大学特別栄誉教授遠藤 守信地下水の水量とフッ素汚染が深刻化するタンザニア・アルーシャ市で、安全な飲み水の十分な量と質を確保するためのプロジェクトが進行しています。現地に即した「統合水資源管理」の実現に向けた現地調査と共に、信大クリスタルを応用した、安全、安価、現地調達可能なフッ素除去材及びフッ素濃度モニターの開発を行っています。アフリカで地下水のフッ素汚染問題の解決を目指したプロジェクトが進行中海水淡水化技術の社会実装に向け、北九州市の実証実験施設が稼働新しく開発した「ナノカーボンRO膜」は、従来の高分子膜にナノカーボン材料を使用したもので、脱塩性、高透水性、ロバスト(頑強)性、耐ファウリング(汚濁)性を併せ持った高機能な水分離膜。これらの特性を生かし、水処理の簡易化、環境負荷の大幅低減により、低コストで世界の海洋汚染を最小化する環境フレンドリーな海水淡水化システム Green Desalination に道を拓きます。新開発「ナノカーボンRO膜」の実用化信大開発膜は耐ファウリング(汚濁)性が強く環境にやさしい回収率を高めると海水濃度が上がり汚染物質(有機物・無機物等)が膜に付着・透水量が減少、より高い圧力必要 ⇒消費電力増・頻繁な膜の洗浄(薬品が必要) ⇒メンテナンスコスト増、環境負荷増目詰まりが起きやすくなる電力費削減・洗浄コスト減環境負荷の低減ACS Appl. Mater. Interfaces, 2017, 9(37), pp 32192-32201PA(ポリアミド:高分子の有機化合物)にカーボンを混入させた信大開発膜(ナノカーボンRO膜)は、従来膜に比べて防汚性に優れている(緑の着色が濃い方が汚染物質がより多く付着している)ファウリング断面が黒く見えるのは、膜にカーボンを混入させているため東レ・信大で開発したナノカーボンRO膜を搭載した4インチモジュールIntegrated Report 2020 Shinshu University22(※)登録商標

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