信州大学統合報告書2020
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Shinshu UniversityIntegrated Report 2020ろいろな文化を背負った学生を「ミキシングする」役目も持っていると、常々思っています。ただ、コロナ禍の中で、その役割をどのように果たしていけばいいのか、という課題が残ったように思います。池上:そうですね。それが今年は一番の課題になりましたね。川﨑:コロナ禍で人々の暮らしが脅かされました。池上さん、これまでと「withコロナ」時代のSDGsの在り方を比較したときに、どこが大きく変わると思われますか。池上:あまりいい例えではないかもしれませんが、コロナ禍になる前の「SDGs」は、いわゆる「お題目」のようなイメージが強かったのではないかと思います。ところが、全世界が経済活動を止めた途端に、「ベネチアで水がきれいになった」とか「インドの北部でヒマラヤが見えた」とか、「北京の空気がすっかりきれいになった」とか、そんな状況が生まれた。 もちろん今回は特別ですし、コロナのために世界中の経済は打撃を受けましたよね。だから「こうやって全世界の経済活動を止めればいい」ということではないのだけれど、人間の活動をちょっと止めるだけで、こんなにも劇的に地球環境が良くなるんだ、ということを私たちは知った。それがコロナ禍で、私たちが学んだことの一つです。 もう一つ、SDGsは「誰一人、取り残さない」という言葉を掲げていますよね。コロナのような感染症も地球規模の課題です。コロナだけじゃなく、将来的に、また新たな感染症は当然起き得るわけですよね。先進国に住む私たちは「手を洗いましょう」「マスクをしましょう」と言えるのですが、アフリカに行くと「手を洗う水が手に入らない」なんてことは、いくらでもあるわけです。つまり、先進国で感染症を抑えても、結局途上国で新たな感染症が広がれば、再び先進国が打撃を受ける、ということが起こり得る。途上国への支援は、実は回り回って自分たちを守ることにつながるんだ、ということを、多くの人が感じたのではないでしょうか。そのために我々は何ができるのか―。私は今回、とりわけSDGsの大切さを痛感しました。川﨑:まさに、そう考える機会、きっかけにはなったのではないかと思います。SDGsは、「教育を受ける権利」という項目を掲げています。SDGsの中の「教育」について、今後、我々はどのように考えていけばいいとお考えですか。池上:世界の途上国では、私たちの常識が全く通用しないんですね。途上国の子供達は、水が手に入らないから、1日に何回も遠くまでに水汲みに行く。それが大事な仕事なので、結果的に教育を受けられない、学校に行けない。そうすると基礎的な公衆衛生の知識も得ることができないわけですよね。それ故に、そういう子たちが大人になっても、環境の悪さは改善しない。悪循環が続いていくんですよね。 私は1950年生まれなのですが、小学校に入った時に真っ先に教わった事が「必ずハンカチを持ってこい」でしたからね。その時に教えられた「右側のポケットにちり紙を、左側のポケットにハンカチを入れなさい」という習慣は、今も続いていますからね。川﨑:以前、池上さんが「教育は盗まれない財産なんだ」ということをおっしゃっていたことを思い出しました。学長にもお伺いします。SDGsと教育とのつながりについて、教育関係者はどう捉えておられるのでしょうか。学長:今池上さんがおっしゃったように、場所が変われば、教育の在り方、やり方は異なるものだと思います。その場に即してやり方を変えないと、当然教育を受けられない人も出てくる。日本にいると当たり前なものが当たり前じゃない世界は、多くの人が思っている以上に存在していると私も思います。 実は、去年9月にモンゴルを訪問したんです。ウランバートルには我々が提携する新モンゴル学園という、日本的な教育をやってる学校がありまして、そこの1年生に対する必須科目が「高原で生活する」というもので、私も3日ほど水が貴重で水洗トイレもない中で生活させていただきました。こうした環境で教育を受けている人たちがいるんだということは再認識しました。やはり教育は、受ける場withコロナとSDGs、大学が行う教育の側面から(※2)学部卒業生で就職希望者の39%。進学者と合わせると約51%の学生が長野県内に残る。Integrated Report 2020 Shinshu University14ONLINE対談|信州大学が目指すVISION2030とSDGs信州大学長 濱田州博×ジャーナリスト 池上彰氏

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