保健学科_研究紹介2020
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―34―女性ホルモンが女性の感情、行動、認知に影響していることは確実だが、そのメカニズムはよく分かっていない。作業療法学専攻女性のこころと身体の健康を守る 精神神経内分泌学 女性は男性の2倍うつ病にかかりやすく、女性の一生のなかでは、思春期、産褥期(産後1~2ヶ月)や更年期が、うつ病を特に発症しやすい時期です。女性であれば誰でも、月経前の1週間は、普段よりもイライラしたり、訳もなく気分が落ち込んだり、ひきこもったり、食欲が変化したりする経験があるのではないでしょうか。このような女性特有の精神的不調には女性ホルモンが関与すると想定されていますが、詳しい機序は実はあまり良く分かっていないのです。 私たちは、医学部精神医学教室、附属病院や創薬科学講座(信州大学とキッセイ薬品との共同研究講座)と協力してこの謎の解明を目指した研究をしています。山梨医科大学(現山梨大学)医学部医学科卒。同大学院博士課程修了(医学博士)。スウェーデンカロリンスカ研究所、テキサスメディカルセンター、信州大学医学部精神科を経て現職。杉山 暢宏 教授実践作業療法学 月経前の精神的不調を改善し予防する画期的な新薬の開発が私たちの目標です。女性ホルモンのバランスに影響する薬物のなかには、乳がんや子宮がんなどのリスクを上昇させるものがありますが、私たちはこのリスクのメカニズムを分子レベルで詳しく検討し、副作用の少ない薬物を目指しています。 女性が生涯を通じて、心も身体も健康に過ごし社会で大活躍することが、私たちの願いです。 臨床現場は研究テーマの宝庫です。卒業生には臨床実践の中で良い疑問を持ち、その疑問を研究の形で追求し、その成果を臨床に還元してもらいたいです。 患者さんやご家族に信頼される優れた医療人は、同時に優れた研究者でもあるのです。研究から広がる未来卒業後の未来像カロリンスカ研究所の親友たち研究発表をする大学院生(日本精神神経学会学術総会)作業療法学専攻より効果的なリハビリテーションの手段を明らかにして患者の回復を助ける リハビリの世界では同じような病気なのに、とてもよくなる人とそうでない人がいます。なぜでしょう。私はこの違いに運動をイメージする力が関係しているのではないかと考えています。両腕を横に伸ばし、人差し指を立て、目をつぶったまま両方の指先を合わせてみてください。ぴったりと指先がついた方は、目で見ていなくても運動をイメージし、そのイメージに沿って運動が実行できており、運動イメージ能力が高いと思われます。 私は様々な方法で測定する「運動イメージ能力」と脳波や脳血流測定で評価される「脳活動」や実際の「運動能力」との関係を研究しています。 現在はリハビリの実施内容に明確な基準はありません。しかし、「運動イメージ能力」と「脳活動」・「運動能力」の関係を明らかにすることで、対象者個々の運動イメージ能力に適したプログラムを実施し、より効果の高いリハビリテーションを提供できる可能性があります。それにより、入院期間が短くなったり、病気になった後でも元気に日常生活を送ることができるようになるかもしれません。 イメージという目に見えないものを、目に見える形で明らかにするという研究は、物事を客観的にとらえる力を養います。客観的な視点をもつことは、物事を冷静にとらえることにつながるでしょう。客観的視点はきっとあなたの人生に役立つはずです。実践作業療法学研究から広がる未来卒業後の未来像ゼミでの実験風景。外部から大脳皮質に磁気刺激を与える「経頭蓋磁気刺激装置」により脳内のニューロンを興奮させ、脳・神経・筋の機能評価を行う。左図:実際のリハビリ場面でも用いられるミラーセラピー右図:ミラーセラピー時の脳の働きが運動イメージの鮮明性と関連することが明らかとなっている新潟医療福祉大学卒業。卒後、相澤病院、新潟医療福祉大学作業療法学科での勤務を経て、2015年より現職。信州大学大学院博士後期課程修了(保健学博士)。岩波 潤 講師

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