保健学科_研究紹介2020
25/40

―23―LGL白血病細胞に関するフローサイトメトリーによる解析(左)と次世代シークエンサーによる遺伝子解析(右)の一例検査技術科学専攻腫瘍と非腫瘍の接点;その違いはどこにあるのか? ―血液細胞から探る― 血液中にはさまざまな血液細胞が流れていますが、時にはそのバランスが破綻します。赤血球が足りなくなったり(=貧血)白血球が腫瘍(=白血病)になったりするのはその一例です。血液検査学および血液病学は血液細胞の異常や凝固システムの問題を検査からとらえ、その病態を把握し、背景にある疾患の診断および治療を通して、ヒトの健康の維持に貢献します。 当研究室では白血球のひとつである大顆粒リンパ球(large granular lympho-cyte; LGL)の白血病および主な合併症の赤芽球癆を中心に、細胞の特性、遺伝子変異、臨床的特徴や免疫異常といった多方面から解析しています。血液細胞の腫瘍と非腫瘍の違いの本質を見極めることをめざしています。信州大学医学部医学科卒業。同大学院博士課程修了。信州大学医学部准教授・血液内科科長を経て、2012年から現職。リンパ系腫瘍の病態解析と新規治療法開発について主に研究している。石田 文宏 教授 医学が進歩すると、新たな未知の領域が展開します。近年の次世代シークエンサーによる遺伝子解析法の導入により、腫瘍の遺伝子異常に関する詳細が明らかになり、全貌がわかるのも間近です。一方、非腫瘍性の細胞にも遺伝子異常があることが判明してきています。従来、腫瘍の特徴と考えられてきた遺伝子異常が、非腫瘍の細胞にも存在する事実は何を意味するのか? 腫瘍と非腫瘍の違いは何か? 腫瘍と遺伝子について、パラダイムシフトがおこりつつあります。 血液の異常にかかわる臨床検査技師や医師にとっては、AIの進歩にもかかわらず、顕微鏡でみる血液細胞の理解が必須です。そして、その背景や現象を研究し成果を世界に発信することは、未来の医療と患者さんへの還元につながります。病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像血液1滴から、血液塗抹標本を作成する。血液細胞の異常を知る第一歩光学顕微鏡でみた大顆粒リンパ球(LGL)(総合倍率 1,000倍)検査技術科学専攻薬剤耐性菌を俯瞰する 新規抗菌薬の開発が遅滞するなか、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ (ESBL)産生菌、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE)などの世界的広がりがヒト臨床分野及び公衆衛生上深刻な問題となっています。これら薬剤耐性菌の早期検出は医療関連感染対策の要であり、研究グループでは臨床治療上重要なESBL産生菌や新型CPEなどの新知見を報告してきています。さらにヒトと密接に関わる愛玩動物、食品、生態系環境にまで研究対象を広げ、ダイナミックな薬剤耐性菌の循環動態について研究しています。また、新生児重篤感染症の主要な原因菌であるB群レンサ球菌で、治療第一選択薬のペニシリンに低感受性を示す菌株を確認し、この分野での世界の研究をリードしています。 46億年の地球史のなかで微生物は様々な天変地異を乗り越えて生き残るべく、多様化、進化を繰り返してきました。病原性遺伝子や薬剤耐性遺伝子を、ヒトに定着性の高い遺伝系統の臨床細菌が安定的に保持しながら伝播・拡散してゆく戦略は臨床の現場でしばしば遭遇する事象です。ヒトとそれをとりまく生態系環境の中で薬剤耐性菌の動態をとらえることで、人類が直面している耐性菌問題の解決に貢献します。 自らが主体となって研究課題の設定、適切な解析アプローチの構築、慎重且つ正確な実験、多面的・多角的な考察に取り組めるような論理的思考力、実行力、発言力を培う努力がこれからの未来に必ずや役立つと信じています。 病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像ヒト-生態系環境における薬剤耐性菌循環動態解明のための包括的研究北里大学大学院医療系研究科医科学専攻環境医科学群環境微生物学修士課程修了後、同大学院医学専攻環境医科学群環境感染学博士課程修了 (医学博士)。2014年医学部保健学科に着任。長野 則之 教授愛玩動物 (イヌ、ネコ、 ウサギ)由来MRSA株の系統ネットワーク解析研究グループでは愛玩動物由来MRSA株とヒト臨床由来MRSA株の遺伝的関連性を明らかにしているWGS解析により明らかにしたリネゾリド耐性遺伝子optrA保有プラスミドのcomplete sequenceリネゾリドはMRSAやVREに起因するヒト感染症の重要な治療抗菌薬である

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る