保健学科_研究紹介2020
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―22―検査技術科学専攻病態機序の解明・検査法の開発を通して、臨床検査に還元できる研究を目指します 病院勤務では主に血液検査を担当し、試薬・機器検討、稀少症例や異常反応を示した症例の解析、企業との共同研究など日常業務がきっかけとなった臨床研究に取り組んできました。現在は血液凝固因子の「フィブリノゲン」について研究しています。近年、フィブリノゲンは血液凝固機能だけでなく組織修復・創傷治癒、血管新生・がん細胞転移、異常蛋白蓄積など、多彩な細胞外マトリックス機能も備えていることが分かってきました。基礎研究として創傷治癒不全や異常蛋白蓄積に関する病態機序の解明に取り組むとともに、臨床検査技師として日常検査に応用できるような新しい検査法の開発を目指しています。信州大学医学部保健学科卒業。同大学院博士課程修了(医学博士)。信州大学医学部附属病院臨床検査部で勤務し、2020年より現職。新井 慎平 助教 過去多くの研究者によってフィブリノゲンの血液凝固機能が研究され、臨床検査項目として広く普及してきました。しかしながら、細胞外マトリックスに関する研究やその破綻によって発症する疾患についての研究は発展途上です。基礎研究を通して疾患の治療や予防に貢献し、臨床検査への応用を通して社会貢献できる可能性があります。本学で習得できる知識・技術は医療現場における臨床検査の実践につながり、困難な課題にも対応できる応用力はニーズに柔軟に対応できる能力となります。医療現場や研究機関などで活躍し、医療および公衆衛生の向上に寄与できる人材になってほしいと思います。生体情報検査学研究から広がる未来卒業後の未来像フィブリノゲンはトロンビンによって不溶性のフィブリンへと変化する(電子顕微鏡像)。異常フィブリノゲンが小胞体に蓄積してしまうフィブリノゲン蓄積病。顆粒状・繊維状の封入体が認められる(右の画像)。凝固波形解析を応用した新規フィブリノゲン測定法の開発検査技術科学専攻先天性フィブリノゲン欠損症・異常症の原因は遺伝子の異常である けがをして出血した時に、健康な人ではしばらく強く押さえていればやがて止まります。このような過程を血液凝固反応といい、この時働く糊の役目をするタンパク質をフィブリノゲン(Fbg)といいます。このFbgは普段は血液に溶けている(液体)のですが、出血を止める時にフィブリン(糊・ゲル;固体)に変わる不思議で魅力的なタンパク質です。このタンパク質が肝臓で遺伝的にうまく作られない低下症・欠損症、タンパク質は作られているのにうまく糊になることができない機能異常症という病態があります。私の研究はこれら原因を遺伝子検査によって分析し、さらにはその遺伝子変化によってFbgが作られないメカニズムと、作られたFbgの機能異常の程度を詳細に解析しています。 Fbgの遺伝的異常症の患者さんでは、出血・血栓症・不妊症・肝硬変・腎アミロイドーシスなどの病気が生じます。Fbgは1482個のアミノ酸からなる単量体がさらに二量体となった繊維状タンパク質です。そのうちのどのアミノ酸がどのアミノ酸に変化すると、どのような病気になるかということが、明らかになってきています。研究がさらに進むと、患者さんが病気になる前に予測ができ、将来は予防ができることを期待して研究しています。 病院検査部で血液検査をした時、市販試薬・装置では正しい値が得られない患者さんや、遺伝的原因により極端な異常値が出る患者さんに遭遇します。その原因を追究し、正しい値を得られるようにすることは、安心・安全な医療の実践に貢献することになります。病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像DNA配列の決定(サンガーシーケンス法)フィブリノゲンBβ鎖遺伝子解析図 上図:健常人、下図:患者信州大学医療技術短期大学部卒、東京理科大学理学部化学科卒、学位:博士(医学)、信大病院臨床検査部臨床検査技師・信州大学医療技術短期大学部准教授を経て、2002年より現職。奥村 伸生 教授ヒトフィブリノゲン産生CHO細胞での産生ペプチド(非還元条件下)ヒトフィブリノゲン産生CHO細胞での産生ペプチド(還元条件下)

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