平成28年度 信州大学教育学部附属松本中学校 外2校(園)研究開発実施報告書(第1年次)
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- 16 - 子ども:「かえるかえるは ひっくりかえる」ってところで,「かあさんがえるは こがえるかかえる」ってところで,ひっくりかえってからこがえるをかかえたのかなって思った。 教 師:こっちは父ちゃんでこっちは母ちゃんだって思ったんだね。おもしろいね。 子ども:かあさんがえるはこがえるをかかえて,とうさんがえるはまよったんじゃなくて,いつにお家に帰るかじゃないかな。 子ども:わたしは「きのぼりがえるは きをとりかえる」ってところで,きのぼりがえるはこがえるで,落ちてるところでかあさんがかかえたんじゃないかなって思いました 子ども:「とうさんがえるいつかえる」のところで,本だったら「とうさんがえるはいつかえる」でいいと思うんだけど,これは詩だから「とうさんがえるいつかえる」の方がリズムがよくなっていいと思いました。 教 師:本だったら,「とうさんがえる はいつかえる」だけど,これは詩だから「とうさんがえる いつかえる」ってリズムを考えてそうしているっていうこと? 子ども:うん 子ども:「かえるかえるは みちまちがえる」のところで,父さんがえる子がえるに「いつ帰る?」って聞かれたら,「どうしよっかなあ」って思って考えて歩いてたら道を間違えたのかなあって思いました。 Y 君:「とうさんがえる いつかえる」のところで,どうして「いつ帰る?」なんだっていうと,父さんガエルはなんかもうお母さんがえると結婚していて子どもがいるからえさをとりに行って少し遅れたとか,それかなんか友だちとなんか,アハハハハ,なんか遊びに行ったりとか,時計を見ないで遊び過ぎて,その後帰ったらお母さんが怒ってた。アハハハハ。 教 師:ハハハハハ。お父さんがえるもいろんな事情があるんだな。うちの父ちゃんそうなんだ。 Y 君:うん,たまにそう。(うれしそうに答える) Y君は,リズムの良さをみんなに感じてもらいたいと思っていたため,「「は」がないとリズムがよくなるから,そこを気をつけてください。」と声を強めに訴えていた。それを教師も支えようとした。 Y君以外の子ども達は,詩に登場するかえるの背景についての考えを広げ始めていた。しかしながら教師は,なんとかリズムに関わる意見を取り上げ,Y君の思いを支えようとしていた。しかし,Y君以外の子ども達は,次から次へと詩を自分なりの考えで語っていった。「かあさんがえるはこがえるかかえる」ってところで,ひっくりかえってからこがえるをかかえた」と語る子どもが現れると,別の子も「とうさんがえるはまよったんじゃなくて,いつにお家に帰るかじゃないかな。」と,詩の中にあるかえるの家族について自分の考えを語った。 すると,じっと黙って聞いていたY君が挙手し,「父さんがえるはなんかもうお母さんがえると結婚していて子どもがいるからえさをとりに行って…アハハハハ。」と再発信した。しかも,先ほどまで「リズムを大切に」と声を強めに訴えていたY君が,うれしそうに語ったのだ。 冒頭のY君には“リズムを大切にしたい”という強い願いがあった。そのY君が友の考えを聴くことを通して,自分の考えを膨らませていったのだろう。そして,自信をもって自分の考えを再発信していったのだろう。他者の考えを受け止めた上で,自らの考えを膨らませ,更に再発信していく姿がある。 このY君のような姿を,新設「ことば領域」で発揮する社会参画に関わる資質・能力の一つと捉える。 ②自己の喜びを他者へ発信し,他者とつながる喜びを味わっていくY君の姿 (小学校低学年 新設「表現領域」に関わって) 昨年度3月,6年西組「太陽の下で歌おうライブ」(音楽集会)で,私たちは,以下のような2年生Y君の姿に出会った。 これまでのY君は,人と話すことが苦手で,学級全体の前で話す時はもちろん,友達とのちょっとした会話ですら,極度に緊張し,口ごもってしまう。休み時間には,一人で図書館に行くことを好み,友達と遊ぶ姿はなかなか見られない。音楽の授業の中で歌ったり踊ったりする時にも,どうしたらよいのかが分からず,教師の周りをうろうろとしているか,一人で椅子に座り込んでいることも多い。

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