- 15 - ちゃうから,愛美さんが言ったようにレンタルとかしないと卵が収まりきらないと思うんだけど,どう?」 子ども:「か,借りるの?」 子ども:「でもさ,6,000円もするよ。」 子ども:「これから孵卵器のことも考えていきたいし,生まれなかった卵をどうするかとかも考えていきたい。」 教 師:「今,H君と和香さんが言った,生まれなかった卵どうするか,みんなそれ,どう思う?」 子ども:「考えられない・・・。」 子ども:「完全に生まれない卵だったら出せばいいと思う。」 N 君:「孵卵器に入らないなら,普通はめんどりが自分の体温で温めるから自然通りにやったらいい。」 子ども:「一遍に一杯やらなきゃいけない。」 子ども:「でもさ,もう10個集まっているよ。」 子ども:「でも,ダメだよ。」 子ども:「ここに春と秋って書いてあるよ。」 教 師:「自然の方法って具体的にどういうこと?」 N 君:「親の体温であっためる!」 子ども:「反対!」「質問!」 子ども:「冬はどうするの?」 子ども:「反対!」「質問!」 子ども:「H君に質問なんだけど,生まれるかもしれないのに,どうして出すの?」 子ども:「N君に質問なんだけど孵卵器も一杯で全部温めなきゃいけないのに,どうやって親が温めるの?」 満杯になった孵卵器を目の当たりにしたH君は,「生まれない可能性が一番高い卵は孵卵器から出さないと・・・」と語った。そして,多くの子どもたちの意識は,“いのち”を守るためにレンタルして孵卵器を増やす,という科学技術や経済の視点に向かっていった。 しかし,N君は自然愛護や畏敬の念といった道徳の視点から「自然の通りにやったらいい」「親の体温であっためる」と主張した。N君は“科学技術や経済の力で解決できても,なんか腑に落ちない”と感じていたのかもしれない。次々と生まれる卵。そして,満杯になる孵卵器。目の前の切実な“いのち”の問題。この唯一絶対の正解がない問題に自ら立ち上がり,自己・他者・対象と対話しながら最善解を見出そうとしたN君。理科や社会,そして道徳の視点から,総合的に最善解を見出そうとしたN君。 このN君のような姿を,新設「暮らし領域」で発揮する自己表現に関わる資質・能力の一つと捉える。 (3)社会参画に関わる資質・能力を発揮する子どもの姿 ①友のことばを受け入れ,新たな見方から会話に参加していくY君の姿 (小学校低学年 新設「ことば領域」に関わって) 1年生の秋,詩『てんとうむし』を読んだときの子ども達の自由な語らい。2年生の春,詩『たんぽぽ』を読んだときの子ども達の想像力の豊かさ。詩の中にあることばの力が,子ども達のことばを豊かにしていくと感じ,年間通して詩を扱ってきた。10月,子ども達が自分で選んできた詩を紹介し合う活動をした際,Y君は『かえる』という詩を紹介した。その詩のもつ独特なリズムをY君は気に入っていて,みんなとリズムを楽しみたいと思っていた。教師はY君の願いを感じ,リズムを楽しめるような授業を構想した。 以下は,詩『かえる』(谷川俊太郎)を扱った授業記録の抜粋である。 (「とうさんがえる いつかえる」の文を「とうさんがえるは いつかえる」と読む子に対して) Y 君:あの、さっきもいったようにちゃんとリズムを気をつけるところを言ったんだけど,「は」がないとリズムがよくなるから,そこを気をつけてください。 子ども:「とうさんがえる いつかえる」だと,なんか跳んでる感じがしてリズムよくて楽しいんだけど,「とうさんがえるは いつかえる」だと,なんか平凡な感じがする。 教 師:「は」のあるなしの違いでな,感じ方が違うということを言ってくれたんだよな。 子ども:「とうさんがえる いつかえる」が,「とうさんがえるは いつかえる」だと,うん…。
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