08端をつなげて膨らませると球になる数学者は実生活に直結するか否かで物事の価値を測ってはいけないと考えています」(境准教授)「埋め込み」の説明に欠かせないのが、「絡み目」という考え方です。私たちが生きているのは3次元空間なので、3次元における図形のことは良く分かりそうなものですが、実は「3次元や4次元といった低い次元が一番難しい」と境准教授。それも「絡み目」の問題に集約されるそうです。例えば、1つの輪っか(円周)が絡まったものが、位相幾何学でいう「絡み目」です。輪っか(円周)=1次元球面なので、それが「絡まった状態」というのは、1次元球面の3次元空間への「埋め込み」にほかなりません。輪っかの絡まり方は無限にあり、多種多様です。それが3次元における問題の難しさにつながっているといいます。そのほか、境准教授が「埋め込み」の分かりやすい例として紹介してくれたのが「ボロミアン環」(左図)。ボロミアン環は、2つの輪っかだけであれば分離可能であるのに、3つの輪っかが「絡まる」ことで、分離不可能な状態になった図形です。「さまざまな形で埋め込まれた図形を、何らかの方法で分類することが、位相幾何学における非常に重要な研究テーマのひとつです。例えば、交差をひとつ変えることで、『解ける』絡み目になることもあれば、『解けない』絡み目になることもある。実はそれが、タンパク質と酵素の働きの解明につながることもあるそうです」(境准教授)「埋め込み」の研究の中でも、境准教授が専門としているのが「多様体(図形)を1つ決めて、その図形における多種多様な埋め込みを全て一斉に考え、その様相を調べること」だといいます。とくに境准教授は、5次元、6次元といった高次元での問題に興味を惹かれているそうです。「埋め込み」に欠かせないのが「絡み目」。絡まり方は様々だが、例えば左はX・Y・Z軸でそれぞれの2つの軸(2次元)に描いた円を交差した例。2つの輪を見れば交差していないが、もうひとつの軸の輪と絡み合って解けない。なんとも単純に見えるが実は深く、3次元の図形の分類は、このような絡み目の分類とほぼ等価であるらしい。「例えば、さまざまな埋め込み方をした1つの図形を一斉に集めます。そうしてできた『結び目の集合体』は、また新しい図形になり、幾何学的対象になるんです。その新しい図形は抽象的なもので目には見えないのですが、例えば、その図形に『穴』がある、ということを見つける方法があるはずなんです。そんな究明を続けています」(境准教授)理学の研究領域は知的好奇心の探求の場でもあります。「この図形は学生が作ったものなんです。この図形が美しいのは、対称性が高いから。これを例えばこの方向から見て各頂点の点を結ぶと、正十二面体を形作っていることが分かります。ほかにも色々な対称性があると思います」。「三角錐を5つ組み合わせた多面体」を手にし、境准教授はそう教えてくれました。「『青少年のための科学の祭典2019』(※)で、こういった多面体を作るブースを学生が出したのですが、親子連れには好評でした。途中から親御さんのほうが真剣になるようですが(笑)」(境准教授)究明されていないことだらけの位相幾何学の世界ですが、「難しいからこそ面白い」と境准教授。「目には見えない図形が感覚的にわかった瞬間が一番楽しいと思います。図形を見て『おもしろそうだ』と思う気持ちを、大事にしたいですね」(境准教授)。「なぜ?」から生まれる学びの楽しさは未来に向けた原動力だと、境准教授は微笑んでおられました。同じ大きさの円形を2つ作り、ふちに沿って貼り合せ膨らませていくと(少しシワが寄る感じがするが)球体になっていく。平面的な2次元の図形が3次元空間に出現した“埋め込み”の一例である。我々が今立つ地球の一部は平面だが、本当は球体に立っており、図形というものを通じて「本当の姿を見る・知る」ことができる。「なぜ?は未来を創る原動力」子供たちや学生に知的好奇心と学びの楽しさを提供PROFILE:境 圭一 准教授信州大学学術研究院(理学系)准教授理学部数学科数理科学コース(幾何学分野)2007年 東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了(数理科学)2010年 日本学術振興会特別研究員(信州大学理学部赴任)2011年 信州大学理学部助教2016年 信州大学学術研究院(理学系)准教授、現在に至る※信州大学理学部主催の一般向けのイベント。学生が出展した理科や数学に関するさまざまな実験や展示ブースで大学研究の一端を伝えることを目的にしている
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