now118_web
6/20

05川﨑紀夫さん(以下、敬称略) さて、本日のトークセッションですが、テーマが2つあります。まず1つ目は「『信濃の国』と信州」。2つ目は、「信州大学の高等教育 知の森の歩み」。旧制松本高校の歴史について繙いていきたいと思います。 では最初のテーマである「『信濃の国』と信州」について。まず長野県民のほとんどが知っているという県歌『信濃の国』。6番までありますが、なかでも「1番は歌える」という県民が多いですよね。 さて、『信濃の国』の作詞者・浅井洌ですが、信州大学の前身校のひとつである長野県師範学校(現在の教育学部)の先生でした。歌詞が誕生したのが明治32年。その翌年、現在の曲が付けられました。とても良くできた歌詞ですよね。長野県をすべて網羅しているといわれています。池上彰さん(以下、敬称略) いや実は、私も網羅していると思っていたのですが、話を聞いていたらどうやら全てを網羅してはいなかったとか・・・。渡邉匡一 そうなんです。実は、野沢温泉村や山ノ内町といった長野県の一番北側の地域については歌われていない。この地域の方達は改めて自分たちの郡歌を作ったという話もあります。川﨑 この『信濃の国』、かつて長野県で騒動になった「分県論」にも関わっているそうですね。池上 今でも長野市と松本市は仲が悪い、なんて言われますが、長野県には、県を北と南の二つに分けようという「分県論」が、明治の頃から存在していました。この北と南を統合する役割を担ったのが『信濃の国』だったようですね。渡邉 おっしゃる通りです。『信濃の国』は北と南だけでなく、各地域の独自の文化・自然を紹介しながら、信州はひとつであることを歌っている。多様な文化や歴史を認め合いながら長野県をひとつにまとめる効果が、この歌にあったことは確かだと思います。池上 昭和23年、「分県」が決まりそうになった当時の県議会で、『信濃の国』の大合唱が起こり、結果分県が立ち消えになった、という話も伝わっていますよね。これが本当に自然発生的だったかどうかは定かではありませんが…。川﨑 いろいろな逸話を残すほど、県民に浸透している県歌は全国的にも珍しいですよね。 長野県の旧国名「信濃国」は、「信州」という呼び名もあります。大学も「信州大学」。似たような歴史がありそうですね。渡邉 遡れば奈良時代の律令制度の中で「信濃国」は生まれ、江戸時代になるとたくさんの藩がつくられ、それぞれの地域で多様な文化、歴史を背負いながら暮らしてきました。その全ての人たちが「自分たちはどこに住んでいるのか?」と問われたときに、納得できる言葉が「信州」だったのではないかと思います。池上 東北、九州など、地域を包含する名称を持つ大学はありますが、ほとんどの国立大学が県の名前を付けています。「信州」という名称を使ったことに、信州大学の独自性を感じますよね。川﨑 信州大学も各地にあった前身校がひとつにまとまって生まれています。『信濃の国』のように、それぞれの歴史を認め合いながら、ひとつになるための言葉が「信州」だったのですね。川﨑 ここからは、「信州大学の高等教育 知の森の歩み」をテーマとし、旧制松本高等学校の歴史について振り返っていきたいと思います。渡邉 日本の旧制高校のうち、番号を冠した高校のことを「ナンバースクール」と呼んでいます。まず設立されたのが、第一高等学校から第五高等学校。当初は地区ごとに番号が振られました。現在の東京大学や東北大学、京都大学などに当たります。その後は設立順になり、松本は7番目にほぼ内定していましたが、最終的には鹿児島に決まりました。川﨑 当時は日本の各地で熾烈な誘致合戦が繰り広げられていた…といわれていますよね。渡邉 そのようです。その後、松本は9番目に内定します。今度は確実…と思われましたが、時局はまさに第一次世界大戦へと向かう最中でした。決定はしたものの、そのまま放置されてしまいます。『信濃の国』のように、各地域の歴史を認め合いながら、ひとつにする言葉が「信州」だった。(川﨑)浅井洌と『信濃の国』。「信州」が総意である経緯とは幻のナンバースクール。旧制高校と学生自治池上彰氏とのトークセッション信州の高等教育黎明期【コーディネーター】信州大学広報スタッフ会議 外部アドバイザー朝日新聞社ソリューション・デザイン部川﨑 紀夫 氏2002年朝日新聞社入社。広告局の外部営業、報道局記者、コンテンツプロデュース部などを経て、2015年中東に留学。2018年よりソリューション・デザイン部。信州大学副学長(学術情報担当)附属図書館長渡邉 匡一寺社資料や伝承資料の調査を通して、中世から近世における宗教文化を研究。2002年信州大学人文学部に着任。2013年教授、2015年副学長就任。2017年から大学史資料センター長も務める。

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る