理学部研究紹介2019
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32研究から広がる未来卒業後の未来像雛に食物を運ぶオオヨシキリ(左)とカワセミ(右)。センサーカメラやビデオカメラを使って、鳥たちの日常を理解するためのデータを集めます。鳥の巣というと、草を編んだものや木の枝を組んだものを想像しがちですが、砂礫地の地上にも小石でできた巣があります(写真では卵が4つ並んでいます)。できたばかりの研究室なので、卒業生を送り出すのはこれからです。研究から水辺の生態系を読み解きつつ、発見したことを多くの人々にわかりやすく伝える能力や技術も一緒に磨いていきましょう。鳥類は生態系の中で高次の捕食者であり、環境との結びつきの強さ、そして変化に対する応答の早さから、しばしば環境指標に用いられます。その基本的な生態や環境選好性を把握し、人為的な水辺環境の改変や外来生物などによる生物相の変化から受ける影響を理解することは、地域の水辺生態系の現状評価を可能にし、生物多様性の保全や向上にもつながります。また、人間活動と軋轢を生じさせる生き物についても、研究を通して、対応を検討するための情報を得ることができると考えています。鳥類学・河川生態学。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了後、一般財団法人、NPO法人、立教大学、弘前大学などでの経験を経て、2019年から現職。笠原 里恵 助教笠原 研究室水が人間の生活に不可欠であるがゆえに、河川や湖沼などの水辺生態系は、歴史的に人によって利用しやすいように改変され、そこに棲む生き物の生活についてはなかなか考慮されてきませんでした。しかし、1980年代以降、人々の求める「豊かさ」が物質的なものに限らず、精神的なものにも広がってきたことで、水辺の環境保全や生物多様性の維持・向上にも目が向けられるようになりました。水辺に棲む生き物の生活と人間活動との将来的な折り合いや自然再生を考えるうえで、各種の生態や必要とする環境、ほかの生き物との関係などを理解することは重要です。これまで、長野県の千曲川など河川をおもなフィールドとして、鳥類を対象に営巣・採食環境や食物網、また渡り経路の研究を行ってきました。今後は諏訪湖や木崎湖に軸をおきながら湖沼と河川の両方で研究を展開していきたいと考えています。鳥の生活/人間活動との関係研究から広がる未来卒業後の未来像B0501001502001977197819791980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010201120122013201420152016透明度(cm)3-5月6-8月9-11月写真 曇天のなか いざ諏訪湖へ諏訪湖の定期観測は隔週で行われている。学生とともに早朝の諏訪湖へ出航する。図 諏訪湖透明度の変遷(1977年から2016年)春(3-5月)、夏(6-8月)、秋(9-11月)の平均値と標準偏差を示したもの。夏の透明度の改善が顕著。卒業生の就職先は多岐にわたっています。なかでも環境分析の技術を活かし活躍している卒業生が数多くいます。学会等で、卒業生と再会するのを楽しみにしています。全国の指定湖沼11のうち、諏訪湖は水質が改善傾向にあるトップランナーであり、その水質や生態系の変化が注目されています。所属の学生とともに40年余にわたって蓄積された知見は、我が国に数多くある水深の浅い富栄養湖の将来予測をするうえで重要な知見となります。また、冬期の御神渡り(全面結氷)の減少や、夏期の水温成層にともなう貧酸素層の拡大は、地球規模の環境変動の影響とも言えます。これら諏訪湖の情報を発信することで、地域の環境保全への取り組みを応援して行きたいと考えています。東京理科大学大学院薬学研究科博士課程修了後、科学技術特別研究員、国立環境研究所研究員を経て、現職。専門は環境化学(人為起源の化学物質の動態解析)宮原 裕一 教授宮原 研究室山岳科学研究所(諏訪)では、1977年から諏訪湖の水質・生態系の定期観測を行っています。現在諏訪湖では、水中の窒素・リンといった栄養塩濃度の減少により、透明度が改善し、浄化の過程にあります。また、底層の溶存酸素濃度の減少は、水温上昇にともなう湖水の鉛直循環の抑制によって生じていることも明らかになってきました。諏訪湖で生じている様々な事象は、諏訪湖集水域の環境の変化や、地球規模での環境変動と密接に関わっています。そこで、データロガーを用いた連続観測を行い湖の環境変動を詳細に把握するだけでなく、集水域を含めた栄養塩や水の物質循環、水質と密接な関係にある湖底堆積物の性状、そして、湖内に生息する生物を支える一次生産量の把握など、諏訪湖の環境の変化やそのしくみについて研究を行っています。最近では、千曲川にも研究フィールドを広げています。諏訪湖を覗けば何が見える?理学部附属 湖沼高地教育研究センター諏訪臨湖実験所理学部附属 湖沼高地教育研究センター諏訪臨湖実験所

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