理学部研究紹介2019
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24理学科理学科生物学コース生物学コース研究から広がる未来研究から広がる未来卒業後の未来像卒業後の未来像進化生態学研究室幹上生活に特殊化したアブラムシと、その甘露を採取する共生アリ。アリは甘露分泌の少ないアブラムシを捕食する。  (研究:D修了生・遠藤真太郎ら、撮影: 同・小松 貴)サラシナショウマ(白い花)の送粉者を観察する。本種は形態的に3タイプに分化しており、それぞれ分布標高や送粉者が異なること、および遺伝的にも分化していることを明らかにした。(研究:M修了生・楠目晴花ら)2003年より現職。専門は生態学および進化生物学。主著に『進化生物学からせまる』、『共進化の生態学』、『ハチとアリの自然史』、『群集生態学の現在』、『生物多様性とその保全』、『花に引き寄せられる動物』(いずれも分担)がある。市野 隆雄 教授「ナチュラリスト」として入学したあなたは、学部で「論理力」と「批判的思考力」を体得し、大学院でさらに研究を深めることによって「サイエンティスト」へ脱皮できます。卒業生には官公庁・民間で研究や自然にかかわる仕事についている人がいます。生物好きで「ナチュラリスト」のあなたに信州大学をすすめる理由。それは、近場でさまざまな面白い生き物に出会えることです。興味深い行動や生態をもつ生物が身近に生息していることは、野外研究をすすめる上で大きなメリットです。野外研究を通して、はじめて私たちは自然を理解することができます。その研究成果は、私たちの自然観を豊かなものにし、自然と共存することの大切さを教えてくれます。生物間の関係はどのようにして進化してきたのでしょう。市野研究室では、生物の種間相互作用による進化について、ハチ、アリ、被子植物などを材料に研究をおこなっています。例えば、①標高傾度に沿った花サイズの変化は、送粉ハチの体サイズが標高間で違うことにより引き起こされた適応進化なのか、②幅広い標高に分布する生物種では標高間で種内の遺伝的分化が見られるか、③アリ-アブラムシ共生系における化学物質による相互認識システムは、地理的に異なる進化をしているのか、などです。生物の共生と共進化を探る【左】セトウチマイマイ(雌雄同体)の同時正逆交尾。【中央】オナジマイマイの左巻変異(上)と野生型の右巻(下)。たがいに左右逆に発生する結果、巻き方向だけではなく、内臓の配置や交尾器の位置(矢印)も左右逆になる。【右】ナミコギセルの右巻変異(左側2個体)と野生型の左巻(右端)。コハクオナジマイマイ(上)とオナジマイマイ(下)が交尾すると、後者だけが相手を識別せずに精包を渡すため、前者だけが雑種を産む。外套膜に蓄積した蛍光物質が黄色く見える(上)。東京都立大理学部、同大学院修士、バージニア大Ph.D.課程、同ポスドク、都立短大助教授、信州大准教授を経て現職。趣味: 動植物採集、飼育栽培、撮影、映画館で観る映画。浅見 崇比呂 教授進化遺伝学研究室世界を驚かす科学の肝は、好奇心にあります。誰も気づかない謎に挑む科学の糧は、あたりまえを疑い、たゆみなく試行錯誤する毎日にあります。純粋科学の真髄・価値を継承する卒業生は、未来にかけがえのない知的資産です。生命の多様にして精緻なる営みは、遺伝情報が世代を越えて変化(=進化)した結果です。例外がありません。進化が生物学の統合原理として21世紀に脚光を浴びるのはそのためです。遺伝情報は自分や親の所産ではありません。生物は共通の祖先から受け継いだ遺伝情報のコピーを使って生きています。自他の命・姿・ふるまいの意味(why, how)を考えるには進化の視点が不可欠です。生物の多様な姿は、遺伝子で子孫に伝わります。無限に近い多様な遺伝子を生物が維持できるのは、生物がたがいに識別し、交雑しない別種として繁殖しているからです。種形成(種分化)こそが生物を多様にする源のイベント。配偶者の選り好み・性フェロモン・交配行動・形の進化が種形成をもたらすプロセス・メカニズムを追究しています。祖先とは左右逆に発生し、内臓まで鏡像の種が進化したのは、巻貝だけです。他の動物ではなぜ鏡像体が進化しないのでしょう。世界に類のないカタツムリの鏡像変異を使い、形や行動の左右性にひそむ謎に挑んでいます。生物進化 Why, How七変化のからくり目から鱗のフロンティア

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