理学部研究紹介2019
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19理学科化学コース化学コース研究から広がる未来研究から広がる未来卒業後の未来像卒業後の未来像二村研究室二村 竜祐 助教2012年3月信州大学総合工学系研究科博士課程修了後、信州大学エキゾチックナノカーボン研究拠点、環境・エネルギー材料科学研究所 博士研究員、特任助教(2018年度)を経て2019年4月より現職。専門分野は『ナノ空間科学』。コンピュータプログラミング、工学機器を用いた装置製作、装置の作図及び3Dプリンターを用いた治具の作成などは研究でよく行います。ですので、学生たちは研究生活でこれらのスキルを身に付けていきます。これらを含め、化学系企業、装置メーカーなどの研究員を目指す学生を応援いたします。電場を印加した時のスーパーキャパシタ内部における分子集団の構造変化を捉えた(a)電場印加によるマイナスイオン周りの第一配位圏の各イオンの割合の変化(b)作成したin-situ X線散乱セルカーボンナノ空間では、プラスのイオンとマイナスのイオンからなるイオン液体のクーロン力による秩序構造が一部崩れた!我々の目標として、ナノ空間を有している「多孔性材料」と「吸着した分子集団」が合わさることで初めて生じる新たな機能を有効に利用することを目指しています。例えば、カーボンナノチューブの有するナノ空間を利用すれば、分子集団を円筒形にそろえることができ、通常では現れない機能の発現が期待できます。そのためには、どんな機能が期待できるのか、また多孔性材料そして吸着分子の種類などをよく考えて研究をスタートさせる必要があります。さらに、ナノ空間で吸着分子がどんな構造になるのか理解も必要でしょう。我々の研究はまだスタートしたばかりです。皆さん「ナノ」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。「ナノ」は科学から一般に浸透した言葉で、10-9 (= 0.000000001; 0が9つ並ぶ)を表し、物理単位と一緒に出てきます。我々人間にとって1nm(ナノメートル)は目では捉えることができないほど、非常に小さな大きさですが、化学の主役である分子たちにとって1ナノメートルは自分たちの大きさより少し大きなサイズになります。私たちはナノメートルサイズの空間に閉じ込められた分子集団の振る舞いについてX線散乱測定などから研究をしています。最近の私たちの研究では「塩」の一種であるイオン液体をナノ空間に閉じ込めることで非常に興味深いことがわかってきました。ナノ空間ではマイナスのイオンの周りにマイナスのイオンが近づけるのですから、いかにナノ空間が特殊な空間であるかということがわかるかと思います。このように、研究では一見すると常識とは矛盾しそうな現象が起こり我々科学者の頭を悩ませますが、なぜそのようなことが起こるのかを突き詰めて考えて理解するのが科学の醍醐味だと思います。ナノ空間と吸着分子で作る新しいナノ材料理学科Figure1. 強磁場中に水を静置すると、磁場の強い部分の水位が下がる(矢印の部分)。水が磁場から逃げようとする力が働くためで、モーセ効果と呼ばれている。(旧約聖書の『モーセの十戒』にちなんでいる)なお、水面がわかりやすくなるように、中には1円玉を入れている。Figure3. 多層カーボンナノチューブを磁場の中で作ると、磁場の向きに成長する。これも磁気配向と呼ばれる現象で、高温(700℃)でも充分に効果が出る。埼玉大学大学院博士後期課程修了 博士(理学)2008年より信州大学。助教を経て現職。専門分野は光化学、コロイド界面化学、炭素材料など。磁場と絡めた研究を展開している。浜崎 亜富 准教授現在、炭素や脂質分子に対する磁場の効果をメインに研究を行っていますので、その分野への就職が挙げられますが、全く関係ない分野で活躍している卒業生も大勢います。研究を通して科学に魅せられ、学者になる卒業生もいます。未知のことを探求する姿勢が身につけば、どのような研究開発にも対応できます。卒業生の可能性は無限大です。浜崎 研究室磁場が物質に与える影響、特に生物などの比較的巨大な物体に対する強磁場の作用は謎が多く残されています。電子スピンレベルでの現象、一般的に磁性体と呼ばれる物質の研究は進んでいますが、非磁性体と呼ばれる物質と磁場がどのように相互作用するかは明らかになっていません。そもそも相互作用しないと思われていますが、実際には非磁性体(専門的には反磁性体という)も分子が大きくなるにつれて磁場を感じる能力が高くなることがあります。このような分子に強磁場を印加した場合や、強磁場中で物質を作ったときに、どのような現象が起こるのかを研究しています。『磁石』を知らない人はいないでしょう。鉄にひっつくとか、グルグル巻きにした導線に電気を流すと電磁石になるとか…。モーターやハードディスクなど、産業製品には重要なものですし、最近ではリニアモーターカーなど、磁石が注目される機会も少し出てきたかもしれません。それでも『電気』に比べたら『磁気』はマイナーだと思います。磁石について『エネルギー』という観点で考えましょう。磁石が発生するエネルギーは電気エネルギーに比べて相当小さいです。電気は『感電』しますが、『感磁』という概念はないですよね。 でもこれ、本当ですか? 知らないだけではないですか?そうです。皆さんだけでなく、われわれ科学者にとっても磁石、特に強磁場は未知の世界で、知らないことがまだまだあります。水を強い磁場の中に入れると、磁場の強い場所では水が凹み、磁場の弱いほうに押し出されるような現象が強い磁場(数テスラ程度:強い永久磁石の10倍くらい)では観測されます(Figure1)。水が磁場を感じるのに、人間(たくさんの水分でできている)は何も感じない・・・怪しいですよね? 強い磁場の中で、物質はどんな現象を起こすかを明らかにしていきます。磁力の謎を解き明かす!0T6TFigure2. 球状脂質二分子膜(細胞膜モデル)に瞬間的にパルス強磁場(3ミリ秒,20テスラ)を印加すると、球の直径が小さくなる。これは10テスラの静磁場と同様であった。磁気配向を経て分裂したと考えられる。本物の細胞はどうだろうか…。強磁場下ゼロ磁場10 um10 um磁場の方向 ←パルス磁場静磁場ゼロ磁場(a)(b)写真は論文(Nature Materials, doi: 10.1038/nmat4974)のプレスリリース会見の様子。(信州大学HP)右から2番目が二村竜祐助教

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