理学部研究紹介2019
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12研究から広がる未来卒業後の未来像理学科物理学コースSQUID(超伝導量子干渉素子)を搭載した最新の高感度磁束計による測定は新たに合成された材料の磁気的性質を調べるのに欠かせない。物理学は、先端技術の基礎となる現象を解き明かす学問で、コースでは何事もその原理から理解するという姿勢を身につけます。そうした力を生かして、機械系、電気系、情報系、鉄鋼系、金融関係など、様々な分野の企業で活躍しています。有効な磁石材料はモーターの効率改善に大きく貢献します。国内電力消費総量の約6割がベルトコンベアや空調に用いられるモーターによるもので、これらの効率をわずか1%向上できたとすると約65万kWhの電力削減になります。磁場制御の形状記憶材料は磁性駆動素子、高出力振動子や熱磁気エンジンなど従来にないアプリケーションが期待されます。磁気冷凍は、温暖化ガス等を用いない、高効率な環境にやさしい技術です。筑波大学大学院博士課程物理学研究科修了後、筑波大学準研究員、信州大学理学部助手、助教授を経て、2006年から現職。研究分野は磁性物理学。天児 寧 教授磁性物理学分野磁石の素は電子の持っているスピン。だから世の中のすべての物は磁場となんらかの作用があります。磁性物理学分野では、高温炉を用いて試料を合成し、磁化測定や電気抵抗測定等の巨視的測定、核磁気共鳴(NMR)測定、メスバウアー効果測定等の微視的測定によりその磁性を多角的に調べ、強力磁石材料のポテンシャルを秘めた物質群をはじめ、磁場で制御する形状記憶材料、磁性体のエントロピーを利用した磁気冷凍材料など、「磁場」との作用による、環境にやさしい新たな機能材料の開発のための基礎研究に取り組んでいます。すべてのものが磁性体!   磁性が絡む機能材料の基礎研究理学科物理学コース研究から広がる未来卒業後の未来像モデル高分子の安定構造 このモデルでは(a)球形や、(b)螺旋形はエネルギーが低く安定。温度変化によっては(a)と(b)の間の転移が起こる。物体の状態方程式 図の曲面上に描かれた等圧線に沿って温度Tを下げていくと曲面が消失し、等圧線は高密度側に移る。このような密度pの不連続な変化は、相転移に伴う体積の変化を表している。大阪大学 基礎工学研究科 博士(理学)信州大学 理学研究科 修士(理学)静岡大学 理学部志水 久 准教授物性理論研究室卒業した学生たちは、基本的な考え方(物理法則)に基づいて物事(自然現象)を考えるスタイルを活かして、それぞれが自分の人生を主体的に生きています。人はいろいろな経験を通して、自然現象の結果を予測することができますが、現実が予測を超える場合もあります。そんなとき人は好奇心を掻き立てられると思います。物理学は、多くの人が抱いた自然現象に対する好奇心の結果として得られた法則の寄せ集めです。人類の理解が及ばず、結果を予測しきれない自然現象はたくさんあります。未知なるものへの探求には困難が伴いますが、そこに挑んで理解が進んだとき、知識の習得に加えて、自身の心の豊かさを得ることができます。相転移とは、物がおかれた環境に応じて物の様態が変わる現象を指します。このような現象は物が非常に多くの原子から構成されるときに起こる現象で、相転移が起きるとき物全体の様々な性質が突然変化します。例えば、水を1気圧で100℃より高温の環境においておくと気体(気相)ですが、圧力を1気圧に保ったまま100℃より低い温度まで冷やすと液体(液相)に変わります。物理学では自然界で起こる現象はエネルギーが低くなる方向に起こると考えています。従って、前述の水の変化は温度が変わることで気体と液体のエネルギーの大小関係が入れ替わることで生じると解釈できます。このようなことを物理法則に基づいて理解するために、物を構成する粒子の運動を記述する方程式を解いて、その結果から物のエントロピーを求める研究を行っています。相転移の解明に向けて(a)(b)

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