理学部研究紹介2019
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10理学科物理学コース研究から広がる未来卒業後の未来像理学科物理学コース研究から広がる未来卒業後の未来像素粒子の標準理論における素粒子の一覧。物資を構成するクォークとレプトン、力を媒介するゲージボソン、質量を与えるヒッグスボソンで構成される。アトラス検出器の全体像。43m×22m。様々なテクノロジーを利用した検出器を組み合わせ、素粒子反応を隅々まで詳細に測れるように設計されています。高エネルギー加速器実験は世界中から集う数千人の研究者と力を合わせて行う大規模国際共同プロジェクトです。しっかりと研究をすれば世界で活躍できる人材になることができます。我々の研究目的は、宇宙誕生のなぞの解明、なぜ宇宙が生まれ現在の姿になったのか、その普遍の法則を探ることにあります。従って直接的に我々の生活に役に立とうという研究ではありません。また、大規模化する実験計画は長い時間と莫大な予算を費やしますが、宇宙の中でちっぽけな存在である人類が宇宙を理解しようという壮大な夢の実現に向けて地道に歩んでいく必要があります。一方で高エネルギー加速器実験では、最新鋭の技術を研究者自ら開発し、開拓してきました。加速器技術は、物質の構造を解明したり、医療など様々な用途に応用されるなど人々の生活に根付いています。2014年 名古屋大学大学院理学研究科修了(博士(理学))2014年 名古屋大学研究員、2017年 神戸大学特命助教を経て、2019年より現職。専門は加速器を用いた高エネルギー素粒子実験。川出 健太郎 助教高エネルギー物理学研究室欧州原子核研究機構(CERN)に建設された超大型加速器LHCを用いた国際共同実験アトラス実験(参考:上図)に参加し、素粒子を支配する物理法則の解明を目的とした研究を行っています。真空を満たし素粒子に質量を獲得させるヒッグス粒子は長年未発見でしたが、LHC実験により2012年に発見されました。これにより素粒子の標準理論が予言するすべての粒子の存在が実証されたのですが、ダークマターや力の大統一など標準理論では説明できない現象を探索するために、LHCは実験を続けます。私は、第3世代のクォークであるトップクォークに着目した研究を行っています。下図は現在までに知られている素粒子を示し、グラフの高さが素粒子の質量を示します。トップクォークの質量は極端に重く、力の媒介粒子やヒッグス粒子よりも重いことが分かります。このため素粒子の質量獲得において重要な役割を担う、また未知の素粒子と密接な結合が示唆される重要な粒子であると考えられています。現在は、LHCデータの解析から、トップクォークの生成や性質を精密に測定し、標準理論の予言と食い違いを詳細に研究しています。宇宙の始まりを素粒子実験で解明ATLAS実験で観測されたヒッグス粒子生成事象の候補。ヒッグス粒子が変化した4つのミュー粒子(赤線)をミュー粒子(緑の台形)が捕えている。本研究室が建設に参加したミュー粒子検出システム。直径約22m の円盤状に全14層に並べられた約2m×1mの約3000枚の検出器と電子回路で構成される。研究には、物理学だけでなく、検出器開発、電子回路開発、ソフトウエア開発と様々な技術を総動員します。学部学生・大学院生は、それらの知識を身に着け、卒業後は、製造業、ソフトウエア開発などに就職しています。教員や研究者を目指す学生もいます。高エネルギー物理学は基礎科学であり、人の人たる所以の一つである知的好奇心を満たし、知の新しい地平を開くことが最大の目的です。得られた知見がすぐに私たちの社会に役立つものではありません。しかし、過去には、発見当時は役立たないものでも、今では社会に不可欠なものとなった例がたくさんあります。現在得られつつある知見が、遠い未来の人類に大きな幸福をもたらすかもしれません。東北大学大学院修了高エネルギー物理学実験放射線検出器開発粒子加速器を用いた素粒子実験による真空と時空の構造、宇宙の成り立ちに興味がある。長谷川 庸司 教授高エネルギー物理学研究室スイスのCERN研究所にある世界最大の粒子加速器LHCを用いた国際共同実験のATLAS実験に参加し、私たちの世界を形作る最小構成要素の素粒子とそれらの間に働く力を解明する高エネルギー物理学(素粒子物理学)の実験による研究を行っています。LHCは陽子と陽子を高いエネルギーに加速し、正面衝突させることで、ビッグバンによる宇宙開闢から10-11〜10-10秒後の状態を再現します。そこで発生した粒子をATLAS測定器でとらえることで、素粒子反応を解明することができます。これは、宇宙の誕生と進化を解明することにつながります。扉は開いた!粒子加速器が拓く     素粒子物理学の新たな地平

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