2019環境報告書
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34■ スキー場による森林回復の違いバブル崩壊と共にスキーブームが去り、全国のスキー場はその4割近くが閉鎖してしまったという。国有林を借り受け開設したスキー場の場合、国へ返還するためには森林に戻さなくてはならない。そのため植林を行う場合もあるが、資金がなく放置されてしまうことも少なくなく、ススキなどの草原のまま20年、30年と停滞し、高木性のある樹種が育たず、森林回復の兆しが見えない跡地がいくつもあるという。城田研究室では、森林回復を妨げる要因を探ろうと、カラマツの森林が自然に回復(天然更新)した蓼科アソシエイツスキー場(A:1997年に閉鎖)と森林回復が2割程度にとどまっているサンアルピナ青木湖スキー場休業地(B:2009年度から休業)を調査した。(2016年~2018年)■ 森林回復が停滞してしまう理由AもBも天然更新した樹種は、周辺の森林とほぼ同じ構成だった。Bで高木類が更新できない8割の区域は、タニウツギの低木類やススキ、オオイタドリなどの草本類が占めていた。タニウツギやオオイタドリの生い茂る葉は光をさえぎり、草本類の未分解の枯れた葉や茎は横たわって(リタ―層)物理的に発芽を阻害していた。基本的にススキはよく光を透すので下部は明るいはずだが、先に侵入したオオヨモギが光をさえぎっていた。 樹種による種子の散布能力に注目すると、Bの周辺にはミズナラ、コナラ、クリなどの堅果類の樹木が多く、カラマツのように遠くまで種子を散布できないことも影響していると考えられた。一方のカラマツの種子は、5~8年に一度たくさんの種子をつくる。Aの閉鎖の翌年が豊作年であったために、草本の定着より先に定着することができ、リター層による影響を受けることなく、順調に成長することができた。カラマツは散布能力に優れ、裸地でも侵入して根を張れるパイオニア種であるばかりでなく、幸運だったのだ。閉鎖の年がずれていたらカラマツによる森林はなかったのかもしれない。■ 森林土壌が剥ぎ取られた影響それでは、Aの天然更新したカラマツは、スクスク伸びているかというとそうではなく、樹高成長速度は、長野県の林地の最低ランクを下回る。豊かな養分と保水力のある森林土壌が建設時に剥ぎ取られてしまっていたからだ。研究室は国有林が行った整理伐の効果を長野県との共同研究で調べ 、このような時に、間伐が成長を助けることを実証している。今後の研究テーマは、応用段階になる。調査地のように貧栄養や草本との競合がある跡地において、速やかな回復や森林機能の観点から、単一種が優先する場合と多種が共存する森林とはどちらが優れているのか、またスキー場や跡地が雪崩発生源となるリスクが高まっていることも踏まえ、森林回復途上で望ましい森林の姿などを明確にしていくことを考えている。■ 持続可能な開発を支える情報提供を城田助教は、跡地が環境教育の場になり得ると考えている。森林は、地域の人々の暮らし、社会と関わりながら生態系をどのように変化させてきたのか、それにより自然の恵み(生態系サービス)は、どのように変化したのかという変遷を知ることは重要であると。さらに自然の恵みを活かすために有効な働きかけを研究し、地球温暖化による気候変動の影響まで視野に入れないと「本当の意味でのサスティナビリティは、成り立たない」のだという。研究室では、スキー場跡地が今度どのような変遷を辿りうるのか、森林回復の視点から調査し、持続可能な開発を支える情報を生み出そうとしている。城田 徹央1995年 日本学術振興会 特別研究員DC12000 年 九州大学大学院農学研究科修了2000年 九州大学熱帯農学研究センター非常勤研究員2003年 北海道大学総合博物館 産学官連携研究員2005年 北海道大学低温科学研究所 非常勤研究員2007年 北海道大学大学院 農学研究院研究員2009年 信州大学農学部 助教2014年 信州大学学術研究院 農学系助教学術研究院(農学系)助教城田 徹央[農学部 農学生命科学科 森林・環境共生学コース]森林回復からスキー場跡地の変遷を見る写真31m×1mのプロット(区画)内のすべての木の高さと太さを測る。(B)では、110プロットを設置した写真1蓼科アソシエイツスキー場跡地(A)写真2サンアルピナ青木湖スキー場休業地(B)

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