保健学科_研究紹介2019
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―23―検査技術科学専攻先天性フィブリノゲン欠損症・異常症の原因は遺伝子の異常である けがをして出血した時に、健康な人ではしばらく強く押さえていればやがて止まります。このような過程を血液凝固反応といい、この時働く糊の役目をするタンパク質をフィブリノゲン(Fbg)といいます。このFbgは普段は血液に溶けている(液体)のですが、出血を止める時にフィブリン(糊・ゲル;固体)に変わる不思議で魅力的なタンパク質です。このタンパク質が肝臓で遺伝的にうまく作られない低下症・欠損症、タンパク質は作られているのにうまく糊になることができない機能異常症という病態があります。私の研究はこれら原因を遺伝子検査によって分析し、さらにはその遺伝子変化によってFbgが作られないメカニズムと、作られたFbgの機能異常の程度を詳細に解析しています。 Fbgの遺伝的異常症の患者さんでは、出血・血栓症・不妊症・肝硬変・腎アミロイドーシスなどの病気が生じます。Fbgは1482個のアミノ酸からなる単量体がさらに二量体となった繊維状タンパク質です。そのうちのどのアミノ酸がどのアミノ酸に変化すると、どのような病気になるかということが、明らかになってきています。研究がさらに進むと、患者さんが病気になる前に予測ができ、将来は予防ができることを期待して研究しています。 病院検査部で血液検査をした時、市販試薬・装置では正しい値が得られない患者さんや、遺伝的原因により極端な異常値が出る患者さんに遭遇します。その原因を追究し、正しい値を得られるようにすることは、安心・安全な医療の実践に貢献することになります。病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像DNA配列の決定(サンガーシーケンス法)フィブリノゲンBβ鎖遺伝子解析図 上図:健常人、下図:患者信州大学医療技術短期大学部卒、東京理科大学理学部化学科卒、学位:博士(医学)、信大病院臨床検査部臨床検査技師・信州大学医療技術短期大学部准教授を経て、2002年より現職。奥村 伸生 教授ヒトフィブリノゲン産生CHO細胞での産生ペプチド(非還元条件下)ヒトフィブリノゲン産生CHO細胞での産生ペプチド(還元条件下)LGL白血病細胞に関するフローサイトメトリーによる解析(左)と次世代シークエンサーによる遺伝子解析(右)の一例検査技術科学専攻腫瘍と非腫瘍の接点;その違いはどこにあるのか? ―血液細胞から探る― 血液中にはさまざまな血液細胞が流れていますが、時にはそのバランスが破綻します。赤血球が足りなくなったり(=貧血)白血球が腫瘍(=白血病)になったりするのはその一例です。血液検査学および血液病学は血液細胞の異常や凝固システムの問題を検査からとらえ、その病態を把握し、背景にある疾患の診断および治療を通して、ヒトの健康の維持に貢献します。 当研究室では白血球のひとつである大顆粒リンパ球(large granular lympho-cyte; LGL)の白血病について、腫瘍細胞の特性、遺伝子異常、臨床的特徴や免疫合併症といった多方面から解析しています。血液細胞の腫瘍と非腫瘍の違いの本質を見極めることをめざしています。信州大学医学部医学科卒業。同大学院博士課程修了。信州大学医学部准教授・血液内科科長を経て、2012年から現職。リンパ系腫瘍の病態解析と新規治療法開発について主に研究している。石田 文宏 教授 医学が進歩すると、新たな未知の領域が展開します。近年の次世代シークエンサーによる遺伝子解析法の導入により、腫瘍の遺伝子異常に関する詳細が明らかになり、全貌がわかるのも間近です。一方、非腫瘍性の細胞にも遺伝子異常があることが判明してきています。従来、腫瘍の特徴と考えられてきた遺伝子異常が、非腫瘍の細胞にも存在する事実は何を意味するのか? 腫瘍と非腫瘍の違いは何か? 腫瘍と遺伝子について、パラダイムシフトがおこりつつあります。 血液の異常にかかわる臨床検査技師や医師にとっては、AIの進歩にもかかわらず、顕微鏡でみる血液細胞の理解が必須です。そして、その背景や現象を研究し成果を世界に発信することは、未来の医療と患者さんへの還元につながります。病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像血液1滴から、血液塗抹標本を作成する。血液細胞の異常を知る第一歩光学顕微鏡でみた大顆粒リンパ球(LGL)(総合倍率 1,000倍)

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