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すので実験などは注意します。学生がひとつ手順を間違えば火があがることもありますからね。でも、研究における試行錯誤が楽しいのはとても登山と似ていますね。花谷:そうですね。似ていると思います。学長:その点、やはり学長という立場で新しいことを始めると大ごとになってしまうので、学長は試行錯誤の苦労はあまりないですよ(笑)。井:いえいえ、何度も言いますが、十分新しいことをされておられます。井:今回の信州大学創立70周年記念遠征では花谷さんが隊長となり、信州大学の旗を持って登っていただくと伺いました。花谷:そうです。創立60周年の時も持って行きました。あの時は登りと下りが同ルートでしたが、今回は違うルートで行くかもしれません。プランはいくつかあるんです。天候や山のコンディションもありますし、高所が初めての若いメンバーもいるので、行ってみないとわからない。現役の信大生もいます。学長:高所が初めてだと苦しいですよね。私も4,000mの場所に行ったことがありますが、ちょっと歩いただけでも苦しかったですね。花谷:そうなんです。僕が20歳で苦い経験をしたヒマラヤ登山と一緒で、若いメンバーにとって、ヒマラヤで苦労し頑張った経験は、社会に出た後も、絶対に人生にプラスになると思います。僕は2015年から若い登山家とヒマラヤの未踏峰に挑むプロジェクト「ヒマラヤキャンプ」を主宰しているんですが、それはまさに20歳の時の僕の逆バージョンですね。井:創立70周年を記念して、信州大学学士山岳会の寄附で、新たな部室として「山岳会館」も新設されるそうですね。自分が関心をもった目の前のことに真剣に取り組むことが尊いことであり、やるべきことだと思います。今はそれを見つけることが大変かもしれませんが、これだと思ったことをとにかくやってみる。仕事にしようというのではなく、夢中になれることを真剣にやることが後々プラスに働くんじゃないかな。遊ぶのも真剣に遊ぶ。中途半端に遊ばない。…なんか先輩っぽくなっちゃいましたね(笑)。学長:私からは「変化の見極め」でしょうか。私は亥年生まれなので、今年は年男。年男になった年を振り返ると、いろいろなことが劇的に変わっています。神戸にいた12歳の時に大阪万博が開催され、展示されていた携帯電話や温水便座(笑)が今は実現しています。24歳の大学院生の時はパソコンが出始めた頃で、それが今は当たり前になり、36歳の時は1年アメリカにいましたが、新聞社のWebサイトができ、海外でも即時的に情報が取れて便利に思いました。48歳の時はスマートフォン、iPhoneが登場する前年で、世の中が変わりました。そして60歳の今はAI。次は72歳ですので、今後も好奇心を失わずにいたいと思っています。最近は「変わるものと変わらないものを見極めないといけない」と学生によく言っているのですが、変わるものに対しては対応を十二分にしないといけない時代だと思うのです。登山もやはり変わるもの、変わらないものがあり、どの山にもそれぞれの変化があるので、花谷さんはそこを見極めて登っていらっしゃることがよくわかりました。井:お二人とも、本日はどうもありがとうございました。信大学士山岳会の伝統「お金は出して、口は出さない」学長:学士山岳会会長から寄附のお申し出がありました。創立60周年の時もそうですが、学士山岳会は大学の周年に合わせていろいろな記念事業をされておられ、深い絆を感じます。井:学士山岳会は活動が活発なんですね。花谷:やはり全国でも活動しているほうだと思いますね。今はどの大学も山岳部が廃部になったり元気がなかったりしますから。でも、信大は元気があります。アルプスのお膝元の信州大学で山岳部が成り立たなくなる時は、日本中の山岳部がなくなる時だと思いますよ(笑)。学長:会長のお申し出は当初、ボルダリングの壁でした。しかし現役の学生の希望により、部室を新設することになったんですよ。花谷:平成も終わるというのに、僕の時代から変わらないプレハブ小屋の部室がまだ建っていた、というのもすごいことですよね(笑)。でも学士山岳会には「OBは、金は出しても口は出さない」という良き伝統があるんです。だから、学生は思うことをのびのびとやって、その代わりに「教えてくれ」ということに対して先輩たちは応えるし、資金を支援して欲しいと言われれば何とか考える。それは、やはり信州大学学士山岳会の絆の強い良いところですね。井:対談の最後に、お二人から信大生やこれから信大生になる若者にメッセージをいただけますか。花谷:僕は好きなことをとことん突き詰めた結果が今の仕事になっています。そこで学生のみなさんも、学問でもスポーツでも自分が夢中になっている目の前のことに、真剣に取り組む。それが尊いことであり、やるべきこと。(花谷)時代は変わっても、変わらないことがある。3

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