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(※2)高度5,000から8,000mの高さを飛ぶ鳥として知られ、ヒマラヤ山脈を越える“渡り”を行うものも。未知に挑むことは、試行錯誤を重ねること。学長:そして海外に行くのは女性のほうが積極的です。卒業して海外の機関に就職するのも女性のほうが多いような気がしますね。花谷:やはり僕のプロジェクトでも女の子がリーダーシップをとって積極的に動いていますね。井:それにしても、10代の頃のヒマラヤ経験はすごかったのでしょうね。花谷:インパクトはありましたね。一番印象に残っているのはアネハヅル(※2)の“渡り”です。僕らが6,900mほどのピークにいる時に、アネハヅルがヒマラヤを越えていったのがものすごい景色で。周り中、全部V字の編隊を組んだツルが自分の上にも横にも下にも飛んでいて、あの光景は忘れません。学長:すごいですね。やはりそのようにいろいろな意味で多くのことに挑戦できるのが学生時代ですね。当然、私の立場からしたら学生たちには勉強をしてもらわないと困るのですが(笑)、勉強しつつも自分がまだ出会ったことがない、見たことがないものに対する挑戦をしていかないといけないと思います。花谷:僕も初めてのヒマラヤは体調を壊したり、初の高山で高山病もひどかったり。ピクリとも体が動かず、登山としては完全に打ちのめされました。ただ、最初のそういう経験は尊いですね。井:登山は判断を間違えると命をも失うリスクがありますよね。花谷:そうです。状況判断と決断の連続です。高所で何日も登っていると判断も鈍ってきますが、それでもミスは絶対にできないので、いいジャッジをするしかない。できなかったら終わりですから。1~2週間集中を切らさず、オンとオフをうまく切り替える。それに、山頂は登山の行程の半分なんです。山登りで一番事故が多いのが下山時ですから。登山と下降のルートが別なら、出てくる場面も全部初めてですし。井:山頂で緊張感を緩めることなんてないのですね。学長は大学運営などで緊張されることは?学長:大学運営と登山に通じるのは、一人でやっているわけではないところですね。ただ、大学運営はずっと緊張しているわけではないですし、学長は一番何もやらないポジションですが(笑)。井:この朗らかな笑い声にいつも騙されますが、そんなことはないと思います(笑)。信大は新しい試みに次々トライされていますし…。学長:影で泣いていることもありますよ(笑)。ただ、だんだん鈍感になってきたように思います。ずっと神経を張り続けていたら身体が持たないので。それでも大学というところは様々なことが起こるので、センシティブにならなければいけない場面は多々あります。学生だけでも11,000人がいますから。井:そうですよね。さて、花谷さんは登山界のアカデミー賞とも言われる「ピオレドール賞」を受賞したんですね。花谷:そうやって形容詞をつけないと誰もわからない賞ですが(笑)。賞の対象となるのは、今まで困難で誰も登っていない未踏峰や未踏ルートの登頂の成功です。このピオレドールの対象になったのは、ネパールのキャシャールという山でした。6,770mのマイナーな山でしたが、岩登りだけではなく、急な雪壁も登る、氷を飛ばなきゃいけないセクションもある、標高差が2,000m以上あるルートだったのでスケールもある。ありとあらゆる要素があって、いろいろな力が求められたんです。未踏峰なので行ってみないとわからないことも多いんですけど、それが面白い。未知を味わえるのは最初の一人だけなんですよ。学長:それは研究者も一緒ですね。初めてのものに意味があるんです。二番目の研究はあまり意味がない。初めて作った物質などには名前も載りますからね。花谷:僕らも、国によっては初登頂の山やルートに自分の名前を入れたりできます。学長:研究は登山と違って命がかかってはいませんが…。私の専門分野は化学で山では状況判断と決断の連続。コントロールできる範囲で、ギリギリを越えていく局面があります。(花谷)初めの一人になるために、試行錯誤を繰り返す。それが研究と登山の似ているところで、楽しくも大事なことです。(学長)信州大学長Vol.7登山家さん(株)ファーストアッセント代表取締役(教育学部卒業生)伝統対談濱田州博花谷泰広SHINSHU UNIVERSITY2

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