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NEXT PAGE学長:神戸は海も近いこともあり、ちょっと違う感じがします。花谷:そうですね。それでもアルプスの山々は憧れで、信州に来た時憧れのアルプスに近くなったのは嬉しい、でも逆に山が街から近かった神戸と違って、山が遠くなったという印象を抱きました。井:そして花谷さんは信州大学に入学されて…。花谷:もちろん熱望していた山岳部に入りました(笑)。選んだ専攻は、独特の教育学部の野外活動でした。僕は第1期生で、5人しか枠がなかったんですよ。本当にご縁ですよね。井:野外活動専攻で学ばれていかがでしたか。花谷:アクティビティのプログラムを体験者に提供して学びを得るのですが、僕は生意気にも担当教員の平野吉直先生(※1)に「結果ありきでプログラムされている野外活動はどうかと思う」なんて言っていました。実際の山登りはうまくいく時もあれば失敗する時もあって、むしろ失敗のほうが多いじゃないですか。人それぞれ、ありのままに感じることがあると思うので、それでいいのでは、と考えていました。学長:自分で考えること、感じることが大切ですね。多分、野外活動専攻は始まったばかりの時期で、大学側も手探りの面があったのでしょう。それに、いまだに「野外」がついている専攻があるのは信州大学だけです。「日本野外教育学会」という学会もあって、いろいろな大学で野外教育が重要だと周知されていますが、教育コースにまではなってはいないのです。花谷:実は僕もその学会で講演をさせていただきました。井:では、信州大学がフロントランナーですね。学長:そうでしょう。ちょうど学会設立と同時期に野外活動専攻ができていますから。平野先生は、今では学会の副理事長も務めていらっしゃいます。井:花谷さんは大学2年生の年にヒマラヤに行かれたのですよね。ずいぶんお若いですね。花谷:たまたま1年生の時に山岳会のOB会(学士山岳会)でヒマラヤに行く話があり、現役大学生も参加していいと言われて、思い切って休学して行きました。僕は冬山を1シーズンも経験したことがなかったのに、当時は「連れていってやるかわりに1年間頑張って登れよ」と応援してくれる大人がいっぱいいたんです。…ところで今は、僕らの時代より学生が休学しにくくなっているんですか?学長:むしろ、今は海外留学がしやすくなっていますよ。例えば1年間海外に留学したら、トータルで5年大学に在籍しますが、授業料の支払いは4年分で免除される制度があるんです。休学でも国立大学は授業料を払う必要はありません。だから今、短期も含めると信州大学からは年間500人ほどの学生が海外に留学しています。花谷:それはすごく大事なことですね。井里美さん(以下敬称略):学長と花谷さんはお二人とも兵庫県神戸市ご出身ということで、同郷ですね。濱田州博学長(以下職名):花谷さんが神戸高校、僕は兵庫高校卒業です。この二校で、昔から春と秋にいろいろな運動クラブの定期戦をやっていましたね。ただ、高校のカラーが全然違う。当時、神戸高校は応援がまとまっていて、兵庫高校はめちゃめちゃでした。自由といえば自由ですが(笑)。井:花谷さんは、高校時代はすでに山岳部に入っていらしたんですね。花谷泰広さん(以下敬称略):高校のすぐ裏手が登山口ですから。僕らは山で走るんですよね。当時はトレイルランニングなんて言葉がなかったので「山走り」と言っていました(笑)。“ボッカ”といってザックに石などを入れた重い荷物を担いで歩いたり、を毎日やっていました。もともと神戸は市民ハイキングの文化が発達しているところで、日本の近代登山の発祥の地なんですよね。学長:ちょっと行けば山がありますからね。近くに鵯越(ひよどりごえ)という源平の合戦地があり、兵庫高校ではそこでマラソン大会が行われていたと思います。花谷:それだけ街と山が近いので、「山文化」という意味では神戸は拓けています。井:山の雰囲気は信州と似ていますか。(※1)現信州大学理事(教務・学生・入学試験・附属学校担当)アルプスの山々は憧れで、山に登りたくて信州大学に来た(笑)。(花谷)多くのことに挑戦できるのが学生時代。未知に対する挑戦をしていかないといけない。(学長)近代登山発祥の地だった神戸から、信州へ。学生時代に海外へ。必ず、後で生きる体験になる。1976年兵庫県生まれ。2001年信州大学教育学部野外活動専攻卒業。在学中から積極的に海外遠征を行い、2013年に第21回ピオレドール賞を受賞。その後日本山岳ガイド協会認定登攀ガイド、国立登山研修所登山指導員などを兼任。現在は2017年に起業した株式会社ファーストアッセント代表取締役。「登山文化の継承と発展に貢献し、多くの人々が登山に親しむ世の中を作る」というミッションのもと、山小屋(甲斐駒ヶ岳七丈小屋)の運営、登山ツアーやスクールの実施のほか、講演やメディア出演などを通じて山登りの魅力を発信している。登山家 (株)ファーストアッセント 代表取締役花谷泰広(はなたに やすひろ)さん花谷さんにお持ちいただいたピオレドール賞の楯。同賞は優秀な登山家に贈られる国際的な栄誉賞で「登山界のアカデミー賞」とも呼ばれる。花谷さんは2013年第21回の受賞者。ピオレドールは「金のピッケル」の意。1

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