工学部_研究紹介_2020_日本語版
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教授河邊淳研究から広がる未来卒業後の未来像世の中には2種類のいい加減さがあります。一つは「桜の花が綺麗」だとか「数分で駅に着く」などの言葉・行動・評価などがもつ曖昧さ、もう一つはサイコロ投げや株価の変動に見られる偶然性に伴う不確実さです。「曖昧さの数理」と「不確実さの数理」は、これらのいい加減さを、数学を用いて測定するにはどうしたらよいかを研究する学問分野です。河邊研究室では、測度や非加法的測度とその積算概念である線形・非線形積分を用いて、『曖昧さ』と『不確実さ』を測るための数学的基礎理論の確立を目指しています。測度論や非加法的測度論は、不完全な情報のもとでの人間の行動を数理的に解明するための期待効用理論や、株価や為替の変動の解明を目指す金融工学の分野で盛んに応用されています。また、ベクトル測度は、無限次元システムを解析する際に必要不可欠な数学的道具の一つです。情報関連企業、金融、運輸、公務員、数学の教員など、就職先は多岐にわたります。特に、各自の工学的専門知識に加え、数学の研究を通じて培った論理的思考方法を修得した卒業生は企業からは好評です。また、大学院に進学して、より深く研究する学生もいます。東京工業大学大学院理学研究科博士後期課程を修了後、信州大学にて、講師、助教授を経て、2003年より現職。研究分野は、測度論や非加法的測度論。特に、非加法的測度の積算概念である非線形積分の収束定理の研究⼈間⾏動や⾃然現象に潜む『曖昧さ』と『不確実さ』を測る【私の学問へのきっかけ】皆さんは数学を勉強中に、何でこんな定理や証明を思いつくのか不思議に思うことがあるでしょう。それは教科書で学ぶのは完成された数学だからです。大学に入って、数学者が試行錯誤を繰り返し、失敗を重ねながら、新しい“数学”を創造する様子を垣間見たとき、この数学を新たに作る仕事にとても憧れをもつようになりました。非加法的測度に関する最近出版された論文。数学研究の競争相手は世界中の研究者。当然、論文は英語で執筆される論文作成時の研究ノート。1つの論文を完成するには、論文ページ数の数百倍の研究ノートが必要⼯学基礎部⾨准教授大野博道研究から広がる未来卒業後の未来像量子とは物質の最小単位のことです。量子の例として電子や光子などが挙げられます。量子の世界はものすごく小さな世界なので、われわれの直感に合わない現象、言い換えれば“不思議な現象”が多く現れます。量子情報理論では、量子の世界で起こる不思議な現象を利用した、今よりずっと性能の良いコンピュータや、盗聴不可能な通信などが研究されています。量子情報理論を研究するためには、数学の研究対象である行列や作用素を学ぶことが必要不可欠です。大野研究室では実験機材などは使わず、数学の理論を日夜研究しています。量子情報理論で研究されているテーマの一つに量子コンピュータがあります。量子コンピュータは現在使われているコンピュータでは出来ない計算をすることが可能です。量子コンピュータを作ることができれば、現在通信で使われている暗号のいくつかを破ることができます。本研究室の卒業生の進路は様々で、機械・電機関連会社から銀行・教員・公務員まで幅広い業種に就職しています。本研究室では、論理的な思考力や問題解決能力を伸ばすことを目標にしており、どのような分野でも活躍できる人材を育てています。群馬大学教育学部を卒業後、東北大学大学院情報科学研究科にて学位(情報科学)を取得。日本学術振興会特別研究員を経て、2009年から現職。専門は作用素論・作用素環論、量子情報理論。量⼦情報理論〜数学で解析する量⼦の世界〜【私の学問へのきっかけ】私の小さい頃からの夢は小学校の教員になることでした。そのため、地元の大学の教育学部に進学したのですが、そこで高校までの数学とは違う、大学の数学に出会いました。大学の数学では理論的な美しさを追求することが一つの大きな目的になっており、その大学の数学に興味を覚えた当時の私は、教員になるか数学の勉強を続けるか迷いましたが、教員になることはいつでもできると考え、数学の世界に足を踏み入れました。研究室の日常風景。一人ひとりが本や論文の内容を勉強し、セミナーの準備をするセミナーの様子。勉強した内容をセミナーで発表する。指導教員からいろいろなことを学ぶ⼯学基礎部⾨68

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