工学部_研究紹介_2020_日本語版
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沖縄の琉球石灰岩地帯の地下水観測用井戸の採水風景。周りの畑(サトウキビや電照菊)では灌漑用水として地下水が利用されているタンザニア北部のメルー山の麓,標高1,500mに掘削されたばかりの井戸。今後、井戸水は配管をつかってアル―シャ市街地に輸送される。井戸水には高濃度のフッ素が溶け込んでいて、斑状歯や骨フッ素症のリスクを含んでいる。バングラデシュと同様に、解決困難な状況だ教授中屋眞司研究から広がる未来卒業後の未来像中屋研究室では、湧水や井戸水などの地下水を採水し、中に含まれているトレ-サ-と呼ばれる化学物質を使って水の動きを追跡し、可視化する研究に取り組んでいます。例えば、クロロフルオロカ-ボン類や六フッ化硫黄などの人工的に製造されたガスは大気中にあふれ出し、年代とともに増加しています。これらのガスは、わずかに地下水中に溶けていて、その濃度を測定すると地下水の年齢が分かります。年代トレ-サ-になるのです。また、水中の18Oや2Hは、地下水の流動トレ-サ-になります。地下水の年齢や動きが分かると、地下環境の様子が見えてきます。地下水中の化学トレ-サ-を測定すると、その水が、いつ、どこ(水源地)で涵養し、どのような経路で流動してきたかや、要した時間(滞留時間)がわかります。地域の水源地の保全や地下水資源の持続的な利用のル-ル作りに一役買っています。タンザニアやバングラデシュなどが抱えている水インフラや水汚染問題を解決し、安全で安心できる水資源を確保し、未来の人たちに受け継いでいく、そんな研究を進めています。卒業生は、官公庁、建設コンサルタント、JR、その他民間企業と様々ですが、何らかの形で水や野外調査に係わる仕事をしている人は多いです。土木関係の紛争の弁護士を目指して、卒論では野外調査研究をした弁護士の卵もいました。民間企業を経て、1999年より信州大学工学部助教授、2010年より現職。研究分野は水文学で、地下水年代測定システムを開発し、アフリカやアジアの地下水資源の保全やフッ素、ヒ素等の大規模地下水汚染を調査。地下⽔の年齢を測り、⾒えない流れを可視化-⽔中の化学物質をトレーサーとして利⽤-⽔環境・⼟⽊⼯学科バングラデシュの地下水調査の一コマ。バングラデシュでは、井戸水(地下水)を飲んでいる。最近、自然由来のヒ素により、地下水が大規模に汚染されていることが明らかになったが、3,500万人以上の人が、環境基準以上に汚染された地下水を飲んでいるといわれている【私の学問へのきっかけ】小学校の時に魚とりにはまり、友達と池や川、海によく出かけていた。きっかけは、中学の時、TVドラマの主人公の「海洋生物学者」にあこがれて魚の研究がしたいと思うようになったことです。大学は生物学科を受験したが、あえなく落とされ、地学科へ。卒業研究では、手作りした実験装置を使って堆積物の物理実験をしていた。毎日が試行錯誤と失敗の連続でしたが、なぜか楽しかった。今もその思いは続いています。教授林卓哉研究から広がる未来卒業後の未来像炭素という元素をご存知でしょうか?無色透明で高価なダイヤモンドから鉛筆の芯に使われている黒色のグラファイトまで、バラエティーに富んだ形態と、金属と半導体を合わせたような特性を持ち、日常生活に入り込んだ身近な元素です。この研究室では、多様な形態をとる炭素の新しい仲間のカーボンナノチューブやグラフェン(図1)といった、ナノメートルスケールの材料を活用した環境問題解決や携帯電話、スマートホンや電気自動車に使われているようなリチウムイオン電池の性能を向上させるための研究を行っています。ナノの世界からアプローチすることで、より緻密な材料設計が可能となり、強度が高くて自分で発電する電子ペーパーや環境浄化材料のような微細なものから、宇宙送電線などの巨大なものまでナノ炭素材料で実現するために研究を推進しています。自動車会社、鉄道会社、電機会社などのエネルギーデバイスの開発を活発に行っている分野が進路に選ばれているようです。就職後も研究室で学んだ事を活かして楽しく仕事をしているようです。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、信州大学工学部電気電子工学科助手を経て2014年より現職。研究分野はナノ炭素材料の基礎科学と応用。ナノの炭素体、カーボンナノチューブグラフェンで環境エネルギー問題に挑む【私の学問へのきっかけ】4歳くらいから野山で昆虫や水生生物採集などをしていて生き物や自然現象に興味を持ちました。小学生くらいになるとおもちゃや電化製品の分解などをして壊しまくって機械構造や回路と機能の関係に興味を持ちました。そうこうして歳を重ねた結果、今のようになりました。どのような些細な疑問や興味でも、それを抱き続けることが学問のきっかけになるのだと思います。⽔環境・⼟⽊⼯学科図1カーボンナノチューブ(左、中)とグラフェンシート(右)写真サイズ高さ4.35cm×幅7.5cm配置位置横11.4cm、縦2.85cm図2リチウムイオン電池を搭載した電気自動車やスマートフォン、タブレット、学生がナノカーボン生成中!?写真サイズ高さ4.35cm×幅7.5cm配置位置横11.4cm、縦8.15cm41

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