工学部_研究紹介_2020_日本語版
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教授酒井俊郎研究から広がる未来卒業後の未来像地上の70%、体内の70%が水と言われていますが、均一な溶液はほとんど存在せず、その大半が分子集合体や液滴、固体粒子が分散したコロイド分散系です。すなわち、自然界や生体は、コロイド分散系から構成されていると言っても過言ではありません。コロイド分散系は、液体中に微小空間を形成していることになります。酒井研究室では、この液体中の微小空間(ミセル・液滴・気泡)を利用して、ナノメートル(nm)(10億分の1メートル)~マイクロメートル(m)(100万分の1メートル)サイズの材料創製に取り組んでいます。酒井研究室では、高純度コロイド材料の製造技術の開発に取り組んでいます。例えば、乳化剤を使用しない乳化技術や還元剤を使用しない金属ナノ粒子合成法の開発です。これらは、近年の環境問題やエネルギー問題などを解決し、次世代の材料創製技術になりえるものと期待しています。コロイド分散系は、自然界、生体における重要な構成要素です。そのため、コロイド分散系は、様々な産業分野(例えば、化粧品、医薬品、塗料、洗浄剤、食品、触媒、表面加工分野など)で活用されています。株式会社コンポン研究所・ニューヨーク州立大学・東京理科大学・信州大学ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点助教・信州大学工学部准教授を経て、2019年より現職,研究分野はコロイド・界面化学性質の異なる物質が接すると界⾯が⽣まれる〜界⾯を理解して、界⾯を制御する〜【私の学問へのきっかけ】コロイド・界面化学との出会いは、大学4年次の卒業研究になります。当時、卒業研究テーマの意味や意義は全く分かりませんでしたが、その研究を現在も続けています。その理由は、「自然界には多くの不思議があり、その不思議を理解したい。分からないことを知りたい、明らかにしたい。」という極めて単純な理由です。卒業研究(コロイド・界面化学)との出会いにより、現在の自分があると感謝しています。物質化学科油と水の混合(乳化)、微粒子の粉砕・分散、化学反応などによりコロイド粒子を作製し、観察・評価してる水中に油滴が分散しているエマルションの光学顕微鏡像エマルションは、化粧品、食品、医薬品分野などで利用されているO/W教授奥村幸久研究から広がる未来卒業後の未来像科学の進歩により、細胞が化学的原理に基づいて働くシステムであることが明らかになりました。そこで同様の化学的原理を工学的に使い、細胞と似たマイクロ化学システムを人の手でつくりだそうという考えが生まれました。研究テーマの1つは、細胞類似マイクロ化学システムにおいて、細胞膜に相当する役割を果たす脂質2分子膜小胞(リポソーム)の開発です。この構造はシステム外界と内界との境界・インターフェースであるとともに、タンパク質に相当する機能分子群を保持する役割を持つなど、システム構築の基盤となる重要な部分です。高度な細胞類似マイクロ化学は、擬似細胞をマイクロマシンとして利用する新治療法や無毒性の「農薬」など、生命現象と関わる分野の技術革新につながります。長期にわたる研究と開発が必要となる重要な課題です。卒業生は、化学につながりを持つ様々な分野で活躍しています。研究室では研究活動を通して、事象を深く観察する、論理的に考察する、物事を的確に伝えるなど、分野によらず共通して必要となる能力を伸ばすことを大切にしています。京都大学助手、信州大学助教授を経て2012年より現職。研究分野は有機化学を背景とした分子集合体化学、特に脂質2分子膜小胞(リポソーム)の化学。細胞類似マイクロ化学システムをめざして【私の学問へのきっかけ】高校生の頃から化学は特に好きな科目でした。特に、持っている物質からまだ手にしていない別の物質を作り出す合成化学に興味がありました。「錬金術」(に近いこと)が自分の手で実際にできるわけです。本格的な合成化学は知識以外に化学物質や実験設備が必要なので、大学でなければ修得が難しい技術の1つです。また、化学を学べば医薬、生命科学、材料など関連する他の分野ともかかわる事ができるという点も進路選択にあたり魅力を感じました。巨大リポソームの形成実験の様子。巨大リポソームは細胞と同程度の大きさを持ち、光学顕微鏡で直接観察することができる巨大リポソームに対するマイクロマニピュレーション。人工授精などと同様に極細のガラス針を通して物質を注入するなどの操作ができる物質化学科9

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