人文学部研究紹介2019-2020
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25経 歴●研究分野比較言語文化コース所属学会と学会での活動主要学術研究業績研究から広がる未来と将来の進路近現代ドイツ語文学ドイツ語学・ドイツ文学分野●現在の研究テーマ1.ローベルト・ヴァルザー研究:   スイスの作家ローベルト・ヴァルザー(1878-1956)の作品,とりわけその文体の機能と成立背景を研究しています。近年ヴァルザーの作品は研究対象として注目されるようになっただけではなく,日本語を含めた様々な諸言語に翻訳され多くの読者を得ていますが,生前はそうではありませんでした。ごく限られた読者の中にはしかし,ヘルマン・ヘッセ,フランツ・カフカ,ヴァルター・ベンヤミンといった重要な作家・批評家が含まれています。彼らを中心とした同時代の文人たちとの比較も研究の対象としています。2.文化的記憶としての文学:   過去の記憶は,公的な歴史記述の中にだけ存在するものではありません。様々な文化的現象の中にもその記憶を見出すことは可能であり,しかも時には公的な歴史的言説とは対立する形で立ち現れます。文学がそのような文化的記憶としてどのような役割を果たし得るか研究しています。外国語の文学を詳細に読むこと,研究することがどのような役に立つのか,訝しく思われる方も少なくないでしょう。しかし,グローバル化,情報社会化さらには目まぐるしく変化する世界情勢の中にある我々にとって,新たな情報や状況を柔軟に分析し思考することは極めて重要なことです。外国語文学を読むということは,そのような能力を身に着ける恰好の場であり,より豊かな未来への入り口となります。日記の私―ローベルト・ヴァルザーの「日記」について(『詩・言語』82号,2016年)   ヴァルザーの遺稿中のテクスト『1926年の日記・断片』は普通の意味での日記ではない。このテクストの語り手は自らの体験を虚飾なく語ることを目指すのだが,絶えずその可能性について自己反省し,本来の目的から逸脱する。このようなテクストから通常の日記に期待される書き手の体験や心情の真率な描写を見出すことはできないが,その描写可能性をめぐる描写が精確に描かれているという点において,「日記」と呼ばれ得ると論じた。物語と想起―ギュンター・グラスの詩学について(『武蔵野美術大学研究紀要』45号,2015年)   ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』『犬の年』そして『蟹の横歩き』における想起および物語行為を,アライダ・アスマンの文化的記憶理論,とりわけ「蓄積的記憶」と「機能的記憶」の相互関係に関する理論を援用しつつ,それが既存の歴史ないし勝者の歴史を動揺させるダイナミックなものであり,グラスの詩学において重要な要素であることを論じた。日本独文学会会員日本独文学会関東支部会員日本独文学会北陸支部会員国際ローベルト・ヴァルザー協会会員1987年千葉県生まれ。立教大学文学部卒業,東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了,同博士課程単位取得満期退学。オーストリア政府給費留学生としてグラーツ大学留学(2015~2017年)。武蔵野美術大学,東京工業大学非常勤講師等を経て,2018年2月より現職。●助教 葛西 敬之

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