研究紹介2019-2020
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信州・長野県には古くから伝承されてきた地域資源が数多く存在します。これらの伝統的な地域資源を見直し、新しい組み合わせにすることで、新規な機能性食品を開発します。右図の「発酵キョウバク」は、「ソバ」と「漬け物」という地域資源の新しい組み合わせで、降圧作用を持つ機能性食品を創り出した一例です。最近、ナスにアセチルコリンが大量に含まれ血圧調整作用があることを、世界で初めて発見しました。 高血圧は、脳溢血や心臓病など循環器系重大疾病の危険因子です。現在、日本で4730万人、世界で10億人以上の人々が高血圧に悩まされています。機能性食品で高血圧を予防し、循環器系重大疾病の予防に役立てたいと考えています。 発酵キョウバクから見つかった、新しい食品機能性成分・コリンエステルは、少ない量で効果を発揮するため、安価で多くの人に利用してもらえる機能性食品を開発することができます。コリンエステルはナスに大量に含まれてることが判り、現在、ナス機能性食品を開発する大型プロジェクトに取り組んでいます。日本だけでなく世界的な高齢化が進行しており、健康長寿社会の実現は、今や世界的な課題です。信州発の新しい機能性食品を開発し、健康長寿社会に貢献するためベンチャー企業を立ち上げました。 当研究室では、機能性食品実用化のために必要な、有効成分の同定、分析、動物試験での有効性確認、機能解析、安全性試験など多岐にわたる知識と技術を身に付けることができます。将来は、これらの専門知識と技術を活かせる医薬品や食品企業での研究開発、商品開発などの技術職で活躍してくれることを期待しています。研究室ではベンチャー精神も学んでください。ベンチャー精神を持つ人材は、大手企業で高く評価されます。 中村 浩蔵 准教授 日本学術振興会特別研究員、JST科学技術特別研究員を経て2002年より信州大学農学部。伝統的な地域資源をリバイバルして、新しい機能性食品を開発し実用化する研究に取り組んでいます。 健康長寿社会の実現に向けて 地域資源を活用した機能性食品の開発 新規な降圧成分として特定されたコリンエステル。自律神経活動を制御して、血圧を適正に保つと考えられます。ラクトイルコリンが天然に存在することは我々が世界で初めて明らかにしました。 食品分子工学研究室 研究から広がる未来 卒業後の未来像 生命機能科学コース 信州・長野県の地域資源であるソバは、実だけでなく茎や葉も古くから食されています。すんき漬は、塩を使わない信州の伝統的な乳酸発酵食品です。ソバスプラウトをすんき漬の製法で加工したソバの漬物が「発酵キョウバク」です。 ソバスプラウト乳酸発酵発酵キョウバクすんき漬製法N+OOアセチルコリンN+OOプロピオニルコリンN+OOOHラクトイルコリンアセチルコリンは、哺乳類の神経伝達物質です。多くの発酵食品と一部の植物に含まれていますが、なぜかナスに大量に含まれています。ナスのアセチルコリンはリラックス作用で高すぎる血圧を下げると考えています。 野外からのきのこ遺伝資源の収集、組織分離培養、遺伝資源の保存・評価・育種などの過程を経て、優良菌株を選抜しています 4年生は各自の研究テーマに沿って実験を行います(左) 実験の例:プロトプラストの作出(右上)、DNA多型解析(右下) 自動収穫機によって根が均一に切断されたホウレンソウ きのこは、抗腫瘍活性を示す物質や血圧降下物質など様々な生理活性物質を含んでおり、従来の嗜好性食物としてだけではなく、薬理効果の高い機能性食物としても注目されています。福田研究室(応用きのこ学研究室)では、我々にとって有益なきのこを効率よく利用するために、生命科学の知見や技術を基盤にして、きのこ遺伝資源の評価やバイオテクノロジー技術を利用したきのこの育種技術の開発研究などを行っています。これらの研究は、きのこ産業で求められているニュータイプきのこの開発や高機能性きのこの育種に繋がります。 長野県は食用きのこの生産量が日本一(全国生産量の約1/3)で、様々な種類の食用きのこが生産されています。このような背景からも、新たな特性を保有したユニークなきのこ品種を今後も開発していくことが重要です。現在の研究は、食用や機能性食品素材としてのきのこの価値を向上させるためのものですが、きのこの難分解性物質分解能力や発酵能力などに着目して育種を行えば、バイオリメディエーション(汚染物質分解による環境修復など)やバイオマス返還 (きのこを利用したバイオエタノール生産など)にも応用できます。 卒業生は、きのこ関連産業だけではなく、食品産業など本コースの一般的な就職先で活躍しています。研究室での活動を通して身に付けた考察力、問題解決能力、プレゼン力などが社会に出ても役立っているようです。大学院に進学して、研究を継続する人も多くいます。 福田 正樹 教授 財団法人日本きのこセンター菌蕈研究所を経て、1991年1月より信州大学農学部に勤務。主な研究分野は、きのこ遺伝育種学。 きのこの潜在能力を最大限に引き出し、 「きのこスーパー系統」の開発をめざす 2.組織分離培養 1.きのこ遺伝資源の収集 5.優良系統の選抜 3.きのこ遺伝資源の保存 4.遺伝資源の 評価と育種 50 μm 応用きのこ学研究室 研究から広がる未来 卒業後の未来像 生命機能科学コース 5

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