研究紹介2019-2020
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14 卵子 応用生殖科学研究室 研究から広がる未来 卒業後の未来像 富岡 郁夫 助教 東北大学、慶應義塾大学、実験動物中央研究所、国立精神・神経医療研究センターを経て、2014年より現職。専門は動物生殖学・発生工学・神経科学。 生殖学の応用技術である発生工学技術は、個体の遺伝子改変を可能にし、医学・生理学・農学をはじめとする生命科学分野で必須のツールとなっています。この技術を用いると難病の原因遺伝子を動物に持たせることができ、ヒトの難病モデルを作出できます。優秀なモデル動物の作出は難病克服への特急券となり、農学部から難病克服に貢献できる研究成果を発信します。 生命の始まりである受精卵は、動物を構成する全ての細胞へと分化できる万能細胞と呼ばれています。その受精卵を扱う生殖学も、万能細胞のようにあらゆる研究分野へと繋がる学問です。本研究室では、①動物生殖学、②発生工学、③神経科学の3本柱で研究を進めています。①動物生殖学研究では、代謝シグナルと性ホルモン合成の関連メカニズムを解明することで、生活習慣病に起因するヒトの不妊や、濃厚飼料の給餌と関連性が示されているウシの受胎率低下の克服を目指します。②発生工学研究では、本研究室の強みである個体レベルでの遺伝子改変技術を用いて、ノックアウト動物や遺伝子改変動物を作出し、未知の遺伝子の機能探索や、新たな研究ツールとなる動物を作出します。③神経科学研究では、小型の霊長類であるマーモセットを用いて、ヒトの難病モデルを作出し、疾患の克服を目指します。遺伝子・分子レベルから個体レベルまでのオールラウンドな研究、そして基礎研究では終わらない実践的研究を目指します。 研究者・製薬会社・食品会社・病院・生殖医療クリニック・胚培養士・細胞培養士・ノーベル賞学者など 生命の始まりの探求 遺伝子改変技術で難病克服に貢献 哺乳動物の卵子や精子を顕微鏡下で操作するマイクロマニピュレーター(左)と、体細胞クローン動物や遺伝子改変動物を作出する胚操作(右)。 小型の霊長類であるマーモセット(左)と、そのES細胞(右上)・iPS細胞(右下)。遺伝子改変技術が確立され、扱い易いため、近年、ヒトのモデルとして注目を浴びている霊長類である。 ES細胞 iPS細胞 マイクロマニピュレーター ホールディングピペット インジェクションピペット 卵子 コモンマーモセット 動 物 資 源 生命科学コース 生殖細胞工学研究室 研究から広がる未来 卒業後の未来像 諸白 家奈子 助教 大学院博士課程を修了後米国や国内での博士研究員を経て、2017年より現職。研究分野は動物生殖学、発生工学。 哺乳類の卵母細胞と卵胞の発育過程の解明、卵巣の体外培養技術の開発を行っている。 哺乳類の卵巣内では未発育な生殖細胞が袋状の構造をとる卵胞に一個ずつ囲まれて数万から数十万個存在します。しかし、そのうちの半数以上は卵胞の発育過程で死滅し、一生涯で成熟卵母細胞にまで発生し排卵される卵子の数は、発生・分化した全生殖細胞のうち1%未満です。実際に、どのような資質をもつ卵母細胞・卵胞が発育を開始するのか、また発育の過程で死滅する卵母細胞・卵胞はどのような特徴をもつのかは明らかになっていません。これらの現象を解明することで、産業動物の効率的な生産・増産、絶滅危惧種の保存、さらに生殖医療への応用を目指しています。 動物が生まれるために、卵母細胞の発育過程は雌動物で行われる最初の生殖活動です。しかし、体内現象であることからその解明は難しく工夫が必要です。そこで、生殖細胞工学研究室では、マウス卵巣組織等を体外で培養する体外モデルを用い、複雑な卵母細胞発育現象を体外で可視化し解析する技術の開発を行っています。卵母細胞の発育機構が解明されることで、卵巣内での卵胞発育を人為的に調節することが可能になります。将来は、産業動物のより効率的な繁殖方法の開発に繋がると考えられます。 卒業研究等を通して、科学の本質を理解し、課題を論理的にそして自由に考えディスカッションする力を養うことで、将来の目指す道への土台作りができます。卒業後は大学院進学、各種メーカーでの研究・開発職、公務員等の様々な分野での活躍が期待されます。 卵子はどのように発育し選ばれるのか? 〜効率的な動物生産を目指して〜 私たちは卵巣の体外培養技術を用いて、卵母細胞と卵胞の発育機構のメカニズムの解明を目指す。 生後10日齢マウスの卵巣切片の染色像 A: 卵母細胞はそれぞれ1個の卵胞に存在し、卵母細胞は卵胞が発育するのに伴って発育する。B: Aの一部拡大像. 卵巣にはたくさんの未発育な卵胞が存在する (破線で囲まれた部分)。 B 卵母細胞の多くは発育過程 で退行する。 排卵卵子はどのようなメカニズムによって選ばれるのか? どのような因子が卵胞の 発育に関与しているのか? A B B 50µm 動 物 資 源 生命科学コース

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