研究紹介2019-2020
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13 最近、人工授精後の雌ウシの受胎率が低下し、50%以下を推移しています。私たちは精子の運動機能、先体の生理的、形態的変化の正確な評価法の確立を試みています。精子は受精部位まで雌生殖道を移動する過程で、受精能獲得、それに続く超活性化運動、先体反応を誘起します。温度勾配や化学物質が精子の運動、移動を調節する重要な要因であることから、私たちは精子の運動(頭部、尾部)解析装置と雌生殖道の温度勾配を体外で再現できる装置を利用して体外の人為的な環境、条件における精子の走温性、走化性、および超活性化運動を解析します。 発情、排卵に伴い子宮から卵管に至る高温への温度勾配の形成、排卵に伴う卵巣、卵子からの特異物質の分泌が確認され、受精部位までの移動には「走温性」が、受精部位での卵胞液、ホルモン等の化学物質への「走化性」がそれぞれ精子の移動、受精を調節、促進します。私たちは精子の走温性、走化性、超活性化運動、受精能を正確に評価し、人工授精後の雌ウシの受胎率の向上をめざしています。 動物生殖に関わる実験を通して、精子の機能、受精機構を解明する能力が身につきます。家畜増殖に有効な技術、能力を養うことが可能です。卒業後は製薬会社、食品会社、農業関連会社、公務員として活躍しています。 濱野 光市 教授 社)家畜改良事業団を経て1998年4月より信州大学農学部 精子の運動生理機能、受精機構の解明 精子の機能解析から家畜の効率的増殖 精子運動解析装置によるウシ精子の頭部の運動の解析 精子運動解析装置 動物生殖機能学研究室 研究から広がる未来 卒業後の未来像 動 物 資 源 生命科学コース 組織培養や生化学実験を通して、実験動物の取り扱いやバイオテクノロジーに必要な技術が身につきます。また、自ら立案し試行錯誤を重ねながら研究を進める力を養うことが出来ます。卒業後は製薬会社、食品会社、不妊治療を専門とする産婦人科の胚培養士として活躍出来る人材になります。 生殖細胞を用いて生命現象に切り込む アニマルバイオテクノロジー 動物生殖学研究室では、マウスをはじめブタやウシなどの哺乳動物の卵子や精子、性ホルモンなど生殖や繁殖に関する研究を行っています。特に、精子のもとになる精原幹細胞(Spermatogonial Stem Cell)の様に多能性・多分化能を維持した細胞に関心があり、これらの細胞を用いた基礎研究や応用研究を進めています。また、精子の低温・常温保存技術および卵子のガラス化保存ならびに非凍結低温保存技術の開発も行っています。 これら生殖に関する生命現象を解明し、動物生産やヒトの不妊医療への応用を目指しています。 ブタ精子の運動性を評価するために、高輝度LEDと超高速ビデオカメラを用いて、精子鞭毛の動きを解析するシステムを開発した。また、同システムを利用しながら精子の保存条件を種々検討している 幼若ブタ精巣の精細管組織の画像。精細管の中で精子が形成される。精原細胞特異抗体により精原細胞のみを染色することが可能だ 精巣細胞を酵素でバラバラに解離すると様々な細胞が得られる。ブタ精原細胞特異抗体で染色すると、生きた精原細胞を蛍光色素で染めることが可能である。FACS分取装置で分離が可能で、精原細胞のみを単離できる。この細胞だけを培養して精子を形成させる研究を進めている 動物生殖学研究室では、生殖細胞をとおして生命現象を解明する基礎研究を行っています。また、得られた知見を応用することにより、人類の発展に寄与することを目指しています。精原幹細胞を、幹細胞の能力を維持しながら自由に増やすことが出来れば、体外での精子形成や、精原幹細胞の精細管への移植により生体での精子生産が可能となり、遺伝子改変など生殖細胞の人為操作がより容易なものになるものと思われます。さらに、ヒト男性不妊の新たな治療法の開発にも貢献できます。精子をはじめ生殖細胞の保存に関する研究の進展により、常温保存など全く新たな保存方法への応用が期待されます。 動物生殖学研究室 研究から広がる未来 卒業後の未来像 高木 優二 准教授 1990年信州大学農学部助手を経て、1999年より現職。この間、山梨県酪農試験場客員研究員を併任。 専門は動物生殖学。哺乳動物の受精卵の美しさに魅了され研究の世界へ。近年は精巣を中心に研究を行っている。 動 物 資 源 生命科学コース

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