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10ラインづくり、国際的な規格開発提案の状況なども紹介し、最後に再生水利用の話題提供としてスウェーデンのビールメーカー・カールスバーグが下水再生水を使ったビールを製造し、即完売するほどの人気だったことに触れました。鍋谷氏は食品産業における膜分離技術の利用は加熱を伴わないため品質や栄養価を維持できるといった特徴があることを紹介しました。そのひとつとしてチーズ製造過程で大量に廃棄されるホエー(乳清)は、かつては河川に放流され環境汚染の元凶となっていましたが、水溶性のタンパク質や乳糖、ミネラルを豊富に含むため、それぞれの成分を分類すれば母乳に近い育児用粉乳に転換できることから、現在は世界で排出されるホエーの60%以上が有効利用されており、同時に河川の汚染問題も軽減されている例を紹介しました。また最近の取り組みのひとつとして、採卵期間を終えた廃鶏のエキスからクレアチニンや塩分を除去して抗疲労物質・イミダゾールペプチドを製造することで廃鶏の有効利用を推進していることも伝えました。一方で水の再利用率が低い食品産業での利用率向上と、食料問題・環境問題・エネルギー問題を含めたSDGs全体への貢献を目指すことが語られ、「対象が幅広い食品分野は個別の対応が必要となるため膜メーカーにとって魅力的分野ではないと思われるが、食品産業の現状を理解いただいた上で一緒に仕事ができたら嬉しい」と今後への期待を語りました。辺見SPLは全膜製品を供給するメーカーとしてRO膜の用途と海水淡水化を中心に、研究開発の最近のいくつかのホットトピックスを紹介しました。その中で「海水淡水化におけるRO膜は大きな市場であるもののコスト削減要求は強くなっており、使用薬品の削減や運転圧力の低減、塩分除去率の向上という厳しい要求に対し、膜の技術だけではなく運転プロセスを理解した上での開発が必要である。また、ZLDはエネルギー消費も踏まえたプロセスのコラボレーションが必要で、ニッチな開発ではあるが重要なマーケットになると予測される」と報告しました。また、あまり知られていない鉱山用途の水利用においては、現状ですでに海水淡水化を利用しているものの莫大な送水コストが費やされていることから、今後は水の再利用や有価物回収が課題となることにも言及しました。さらにポリアミド(PA)における新たな研究としてエレクトロスプレーデポジション法(ESD法)の可能性を示唆した上で、「生物模倣技術としてアクアポリンを合成した研究が欧米を中心に再燃すると考えられることから、日本は決して安穏としてはいられない」と提言しました。全パネリストの報告・見解を受け、上田EAから質疑がなされました。岩橋氏には「造水コスト削減のポイントは造水タンク設備の小型化であり、回収率を上げることがメインの方向性であるか。またROプラントのエネルギーとして電力では限界があり、中東を主軸に考えると太陽光発電をプラントに直結する動きはないか」との質問が投げかけられ、「小型化により配管やポンプ等も小さくなることでエネルギー消費量も削減したいが、回収率をあげるためのRO膜の設計を考え、ロバスト性や脱塩性能の向上、多段化といったプロセス設計との協調が大事である。太陽光発電についてはすでに中東において相当量が進められているが、夜は発電しないため検討の余地がある。また中東においても環境問題は避けて通れないため、ZLDなどは常に関心をもって措置は講じておかないといけない」との回答が得られました。続く田中教授へは「飲料水と農業用水は要求される品質レベルが必ずしも異なるわけではなく、農業用水もある程度の処理やモニタリングが必要か」と質問され「使用用途により異なる。例えば沖縄では野菜とマンゴーと花卉を育てるための農業用水が求められており、病原菌が含まれた再生水で手を洗浄すると感染の可能性が出てしまう。つまり、再生水の使用頻度と浴びる量が問題であり、飲用でも水道直結か河川への放流かで品質レベルが変わるため一概には決められない。しかし最近は数量化・基準化が進んでいる」との回答が得られました。大熊氏へは「ZLDによる環境負荷軽減は企業の責任として再生水とは別に考えていく範疇ではないか」との質問がされ、「下水処理水の再利用は水源の確保に主眼が置かれているが実際のマーケットはインフラ系である一方、ZLDは環境負荷軽減が主眼であり、マーケットは産業系が主体である。特に産業系において膜の技術はオペレーションを自動化できることに加え、耐ファウリング性や耐塩素性をもつ新しい膜が開発されれば膜の洗浄といったメンテナンス性の向上も図れ、膜のマーケットはさらに広がると考えられる」との見解が述べられました。鍋谷氏に対しては「栄養物質分離となるとMF膜やUF膜よりさらに孔径を細かく制御することで用途が広がる可能性はないか」との問いかけがあり、「分離の精度が向上すれば用途がより広がる可能性もあるが、食品の場合は各成分が高濃度かつ種類も幅広いため、ファウリングは透過流束だけではなく分画分子量にも影響を及ぼすので、膜本来の精度が向上しても食品処理において性能の発揮が難しい。膜の操作条件の検討や最適化も精度向上とともに必要である」との回答が得られました。討論の最後には質疑応答が行われ、一般参加からの質問に対し参画企業の参加者から応答が見られるなど活発な議論が交わされ、COI拠点の今後の展開への期待の高さがうかがえました。これまでの6年間で開発してきた革新的な技術の社会実装に向けたフェーズ3を目前に、より一層の研究開発と課題解決に向けて、⦆プロジェクトの結束と士気が高まるシンポジウムとなりました。食品分野への応用とZLDや水の再利用への期待、膜の新たな研究の方向性各分野における社会実装の可能性と市場性への期待、水科学の重要性を再確認辺見 昌弘サブプロジェクトリーダー東レ株式会社 理事田中 宏明 氏京都大学大学院工学研究科 教授大熊 那夫紀 氏一般財団法人造水促進センター専務理事鍋谷 浩志 氏農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門長テーマに行われたパネルディスカッション

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