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09することで電力コストが削減できる可能性は大きい」と今後の方向性を示唆しました。田中教授は技術的な観点から、水の再利用促進の課題として安全性と信頼性の問題があること、そのリスク評価のためのモニタリングの重要性、再生水の処理コストと輸送コスト、運転管理コストの問題と万一の際の複合的な対応を考える必要性を言及し、「最終的に再生水は利用者の信頼、信用、安心の確保が求められるため、技術的な信頼性と環境負荷の低減効果、オンラインの監視、利用者と周囲の合意形成が必要である。沖縄においてはUF膜を故意に切断して病原微生物の除去率を測定し、結果的に後段にUVをつけて対応している。こうした膜の健全性のモニタリングを通じたフェイルに対する注意は水の再利用では必要であり、かつ膜が非常に強いことが極めて重要」と伝えました。大熊氏は海水淡水化や排水処理の再利用の研究開発・調査事業を行っている造水促進センターの現在の水の再利用と国際標準化、さらには再生水の用途の広がりについて報告しました。今後、さらなる産業用水の需要が伸びるとのOECDの予測を受け「非在来水源である下水や排水、海水の活用が重要であり、膜の技術が有効。かつマーケットは急増しており、新しい膜で高フラックス化・耐ファウリング性・耐塩素性の3つが実現すれば海水淡水化や水の再利用分野に展開できる」と言及しました。さらに、近年世界で条例化が進んでいるZLD(ゼロリキッドディスチャージ:無排水化)や再利用水の飲用化、医療分野への展開も期待できることを述べ、特に医療分野ではRO膜とUF膜の組み合わせでつくられる透析用水のマーケットは大きく、展開が期待できると語りました。また、日本の再生水技術の信頼性の向上に向けた再生水利用に関する規格・ガイド概況報告に続く第2部として、これから社会実装していく海水淡水化についての歴史と世界の現状を再確認し、水が豊富な日本での水問題への連携という観点で招待講演が行われました。三菱商事株式会社水事業部シニアアドバイザーで日本脱塩協会会長の岩橋英夫氏からは「海水淡水化の現況と今後」と題し、ビジネスの視点から、蒸発法からRO膜法へと変遷してきた海水淡水化の歴史と今後の展望が講じられました。大学時代から逆浸透膜の溶質(塩)の分離研究を重ね、1980年に三菱重工業株式会社に入社後は一貫して海水淡水化に従事してきた同氏の経験を踏まえ、海外(主に中近東)における海水淡水化プラントの歴史や最近の市場の動き、機器などの分野別の分析と事業の主体となるプレイヤーの変遷、市場のトレンドと日本の競争力との関係などが言及される中で「現在は世界規模で見るとRO膜による海水淡水化が78%を占め、そのうち中東が世界の市場の36%を占めている。海水淡水化に加えて、今後は水の再利用がさらに伸びると考えられることから、COIのRO膜はロバスト(頑強)性も高いため十分に市場に入り込む余地がある。ROプラントの価格競争力ということで、メガトンプロジェクトでは、可能な限り大型化・効率化を図るとともに、下水処理水を利用して海水の塩分濃度を下げることで、コスト削減を進めてきた。しかし、20万トンくらいが最適とする試算もあることから、大きくするほど安くなるわけではないと思われる。以上も踏まえ、COIは産学連携に政府が支援をしながらつながっている手応えを感じている」という話がありました。続く京都大学大学院工学研究科の田中宏明教授からは「水の再利用―広がる役割と課題」として、世界的な水資源の量的不足と質的悪化、気候変動への対応における水の再利用の重要性と大学における研究開発や現場での展開、さらにその先まで考えた水の再利用の将来性が講演されました。世界で約80%の生活排水が無処理で河川に流出されている現状と、輸送コストも踏まえたエネルギー問題や環境への負荷削減も含めた水の再利用の有効性、米国やシンガポールをはじめとする世界での水の再利用の現状が語られる中で「水の再利用にあたっては、再利用のレベルと処理コストにはトレードオフの関係があること、再利用の用途によって何をどこまで取るかを考慮する必要がある。その技術開発を体系的に行う中で分離膜は非常に重要である一方、分解や消毒効果をもつオゾンや紫外線(UV)処理との組み合わせなど、処理後も含めた別のアプローチも考える必要がある。沖縄南部の農業地帯では、単価の安いサトウキビに代わる果物や野菜などの農作物を栽培するための安全な灌漑用水の要求が高いが、水源がないことから、下水処理水をUF膜とUVを組合せて再生処理し、農業利用するという実証試験を行っており、市民の合意ができつつある。2年後を目処に本格的な事業化が実施される予定であり、さらに季節変動のない工業用水ネットワークも検討中で、そのためにはCOIのRO膜による水処理の簡素化が重要である。加えて国内のマーケットは限られるが国際的なニーズが高いため、世界で協力しながら国際規格化を推進している」といった現状と今後の展望が語られました。さらに第3部として、上田新次郎エグゼクティブアドバイザー(EA)をモデレータに「新しい分離膜の水処理・社会実装への期待」と題したパネルディスカッションが行われました。パネリストは招待講演を行なった岩橋氏、田中教授のほか、造水分野から造水促進センター専務理事の大熊那夫紀氏、食品分野から農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門長の鍋谷浩志氏、COI拠点からは東レ株式会社の辺見昌弘サブプロジェクトリーダー(SPL)の5名が登壇し、新しい膜・材料と水科学への知見をもとに、造水・水循環システムの社会実装に向けて意見が交換されました。最初に上田EAからプロジェクト6年目の総括として水科学を総合的に解明していくCOIの特徴が提示され、それを踏まえた社会実装とイノベーションに向けた課題・現状・期待が各パネリストに投げかけられました。岩橋氏は「海水淡水化のマーケットは今後も中近東が中心になることは否めないとなると原油価格に非常に左右される一方で、水の再利用に的を絞ると状況は変わる。特にここ数カ月でRO法大型海水淡水化プラントの価格が大きく低下し、市場が新たな段階に入ったと感じており、膜のコストをかなり下げないとなかなか海水淡水化事業に加わることはできないと考えている。コストブレイクダウンの一例として、海水淡水化における電力コストは莫大なため、膜単価だけではなく膜自体の性能を向上専門家の討論から切り開く多様な分野での革新的RO膜への期待とその社会実装への道筋招待講演岩橋 英夫 氏三菱商事株式会社日本脱塩協会 会長上田 新次郎エグゼクティブアドバイザー信州大学特任教授「新しい分離膜の水処理・社会実装への期待」を 社会実装に向けたパネル討論多様な分野における造水・再生水の社会実装の進展とSDGsの実現に向けて
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