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湿度変化から発汗を計測するという仕組みで、そのデータを独自開発した記録・解析システムを通してPCに取り込むことで、瞬時にモニター上でリアルタイムな発汗量を表示、記録することができます。これほど簡単に、しかも本人には自覚すらない発汗量であっても高精度に測れる機械は、世界に類を見ないといいます。生理学を専門としていた大橋特任教授が発汗計の開発に着手したのは1981年。長野工業高等専門学校(以下、長野高専)の坂口正雄名誉教授と共に始めた研究でした。最初の換気カプセル型発汗計が厚生労働省から医療器具として認可されたのは1991年。民間企業との共同開発を経て、近年、「汗の計測」で心身のさまざまな変調を捉えられることが認知されてきました。例えば、高齢者や神経疾患を抱える人に起こりやすい発汗機能の低下は、熱中症のリスクを増加させます。発汗異常の評価は、生命に関わる指標でもあるのです。ほかにも、精神疾患に悩む人のストレス要因を発汗量により瞬時に可視化することができれば、早期の原因特定に役立ちます。医療業界だけでなく、製品の快適性や有効性を評価したいさまざまな業界からも、「汗の計測」は注目が集まっています。発汗は、大きく次の2つに分けることができます。緊張したとき、ヒヤリとしたときなど精神的な緊張や動揺によって手掌や足の裏に生じる発汗を「精神性発汗」、炎天下で作業や運動などをしたときに体温を下げるために生じる発汗を「温熱性発汗」といいます。(株)スキノスが開発する「換気カプセル型発汗計」は、発汗量の多い温熱性発汗はもちろんのこと、非常に微量な精神性発汗も簡単に計測、可視化することができます。すでに医療機関をはじめ、皮膚科学や心理学などに関連する研究機関のほか、制汗剤、繊維、寝具、空調メーカーといったさまざまな民間企業でも採用されています。「全世界探しても、類似する機械はどこにもないと思います」とスキノスの百瀬英哉社長は話します。これまで、発汗の計測には、体重減少量を測る方法や、ミノール法(ヨウド・デンプン法)と呼ばれる汗の成分に反応するヨードとデンプンを皮膚に塗布し、変色の様子を観察することで発汗現象を可視化する、といった方法などが知られていました。しかし、いずれも不連続で定量性に乏しいというデメリットがありました。一方、換気カプセル型発汗計は、同社の顧問を務める大橋俊夫特任教授が開発した「換気カプセル法」というユニークな特許技術が用いられています。カプセルを測定したい部位の皮膚に被せ、そこに空気を送り、皮膚を通過する前後の唯一無二の特許技術。ユニークな発想で生まれた「発汗計」最初の開発から約30年を経て実現した保険適用今年4月、(株)スキノスが開発する「換気カプセル型発汗計」による発汗検査が公的医療保険の適用となりました。「換気カプセル型発汗計」は、手掌の非常に微量な発汗量まで測定することができる世界に類を見ない機械です。信州大学医学部大橋俊夫特任教授(メディカル・ヘルスイノベーション講座)が約30年前に開発した技術をもとに、改良を重ねてきました。保険適用されたことを追い風に、医療業界を中心に、皮膚科学や心理学、スポーツ・健康科学の研究機関のほか、意外なところでは、服飾・繊維メーカーや冷暖房メーカーなど、多種多様な業界からも注目が集まっています。(文・柳澤愛由)信州大学医学部メディカル・ヘルスイノベーション講座(寄附講座)特任教授大橋 俊夫 (おおはし としお)1974年信州大学医学部卒。英国ベルファストクイーンズ大学医学部講師などを経て、1985年信州大学医学部教授。2003~08年医学部長。日本リンパ学会理事長、日本発汗学会理事長、日本脈管学会副理事長などを歴任。研究分野は、微小循環とリンパ循環。2014年5月より現職。07信大発特許「換気カプセル型世界に挑む。
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