NOW111号
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オランダでの武者修行を見て、父は「1年ではもったいない」と。信大には、深く学び、深く考えられる環境がある。「創(きず)」つくことを通して、自分を強くしていく。05が良いのではないか、などと言われます。しかし、私自身は、どこかで一度、深く学ぶことをやらないといけないと思います。深く考えて、そこで考えながら学ばないと、将来どこに行ってもそれができなくなる、というのが、私の考えです。藤島:学生に考える時間を与えて、それが学びになっていく。これは、大学教育の理想のスタイルではないでしょうか。学長:そうでしょうね。大学の主役は、大学生です。教職員のいちばんの役割は、学べる環境をいかに充実させるかだと思っています。藤島:小平さんのインタビューには、しばしば「学び」という言葉が出てきます。小平さんにとって学びとはなんでしょうか?小平:学びとは創造すること、と考えています。創造の「創」という字は、“つくる”ですが、“きず”とも読みます。何かを創り出す時は、成功することよりも失敗することのほうが多いので、そこから学んで、成功に持っていく。そうしたことを、大学の授業で考えさせられる機会が何度もありました。藤島:学生から、どうしたら自分の道が見つかりますかと質問されたら、何か答えはありますか。小平:厳しい言葉でいえば、本当に自分の人生は自己責任。覚悟を持って決めないと、自分の人生を生きられません。結城:おそらくその学生はまだ一人になれていないのだと思います。それは決して孤高になれということではなく、親元から離れ、見ず知らずの人たちにとけ込んでいく。藤島:オランダで、小平さんにどういう変化が起きたのでしょうか。小平:大学在学中から海外のスケートを見てみたいと思っていて、それがソチオリンピックが終わってすぐに実現しました。スケートを文化としているオランダで、地域の人を巻き込むスポーツを見たことで、勝利、勝負に没頭していたところから、スポーツをどう究極に楽しむかというところに行き着き、人生の歩き方にも影響を与えられました。すごく大きな変化だったと思います。藤島:当初1年の予定が、2年に。もう1年というのは、何かあったのですか。結城:1年目が終わる頃に、私と小平のご両親とで一緒にオランダへ行き、彼女の活動を見ました。そこで、自分で運転して練習に行く(成長した)姿などを見たお父様から「1年ではもったいない」という言葉が出ました。小平:私も確かにそうだ、と思って。父は英語で人としゃべることが好きで、当時オランダで教わっていたコーチから「奈緒をもう1年オランダに置いてもよいか」と話された時に、父が「You can keep it.」と即答したんですね。私、“it”じゃないのになぁ、と思って…。そんな笑い話にもなっています。藤島:グローバルの話でいうと、信州大学は海外から留学生を受け入れていますが、どんどん学生も送り出していますね。学長:今、留学したい学生は増えています。短期だと昨年度は 学部1年生だけでも100人を超えました。信州大学に学部生として在学する外国人留学生は正規留学生で130人ぐらいですね。また、今年度から全学横断特別教育プログラムのグローバルコア人材養成コース(※1)も始まるので、海外留学する学生がもう少し増えてくれるといいと思っています。藤島:学生時代を振り返って、小平さんは大学4年間で何を身につけられましたか。小平:スポーツで結果を出している選手というのは、だいたい高校卒業後にすぐに実業団とかに行かれるのですが、私の場合、大学で学びとは何か、スポーツとは何かを考える機会が多かったことが、卒業後の学びにも大きく影響しています。また、スポーツや教育を学ぶ学生と一緒に過ごして、スケートだけに限らない、いろいろな人の価値観に触れられたことも収穫でした。藤島:学びとは何か、スポーツとは何かという根源的な問いかけは、結城先生が意識して指導されているのですか。結城:もちろん意識しています。そのために、考えさせることをたくさん仕掛けます。教えることは簡単ですが、それはある意味近道で、その道しか通れなくなるのです。しかし、学ぶという経験を通して、自分で道を見つけられれば、今度は自分でクリアしていく手立てを身につけることができます。藤島:考える力を養うということでは、学長が入学式でディープシンキングのお話しをされていました。学長:パソコンが発達して、昔は大変だった図を描く作業などがチャカチャカッとできるようになりました。そうすると、図を描く間に実験結果を考えていた時間も少なくなります。こういう利器がある今の学生は、本当に深く考えているのかなというのが一つ。もう一つは、今まで大学は深く学ぶという方向性でしたが、最近は広く浅く学ぶの(※1)全学横断特別教育プログラムグローバルコア人材養成コース/海外・国内におけるグローバル環境で、組織のコア人材として活躍できる素養、能力、教養を身につけ、主体的に協働できる人材の育成を目指す。2018年度新設。小平を見ていると、日本語の使い方も、表現の仕方も、すごく拡がった、伸びた、という時期があります。(結城)信州大学       伝 統 対 談Vol.6

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