NOW111号
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バーですが、製品化には「量産化技術」が必須、そこが誰もなしえなかった快挙、ということになります。 実は、ナノファイバー自体は、80年程前から研究が続けられてきた、とても歴史のある技術。代表的な作成方法のひとつにエレクトロスピニング(電界紡糸)法(※2)がありますが、長年この方法での均一的な量産化は難しいとされてきました。この常識を覆したのが、渡邊さんの恩師、金翼水学術研究院(繊維学系)准教授が開発した「ナノファイバー量産機」です。この技術・装置の存在が、ナフィアス最大の強みでもあります。 「弓や刀の時代に…」の見出しも、ナノファイバー研究の権威の先生がおっしゃったもの、と金准教授。ナノファイバー量産化成功は、それほどインパクトのある出来事だったそうです。 「2011年に量産機が完成し、当初その販売をメインにした事業を考えたのですが、最初から事業者向けにビジネスするのはなかなか難しくて。まずはナノファイバーが量産できる事実を実感してもらう必要があったんです。そのために製品化したのがマスクでした」(渡邊さん) 2014年、最初に完成した製品が、高機能サージカルマスク「aerumask(アエルマスク)」。一般向けのマスクではありますが、もちろん先述した「NaaS N-95」同様、フィルターには「NaaS®」を採用。マスクをしながらジョギングをしても全く息苦しくない快適さが売りの製品です。このマスクの存在が「名刺代わり」となり、その後の起業を後押ししてくれたそうです。 「ナノファイバーを大量生産できる特許技術と実績、スピード感はベンチャーならではだと思っています」と渡邊さん。現在は量産機のカスタマイズや設計、製造といった事業者・研究者向けのビジネスや、工業用フィルターの開発といった企業との共同研究も展開。3期目となった昨年は2期目の倍に売上を伸ばしており、今後も、垣根を作らず可能性の数だけ事業の広がりを作りたいといいます。 「以前は三重の外資系企業で働いていたのですが、現在ナノファイバーの製造委託を依頼している三重県亀山市の亀山製絲の工場に、渡邊君がちょうど訪れたことがあり、その時の話でナノファイバーの実用化が進んでいることを知って…。学生の頃はまだまだナノファイバーの製品化がここまで進むなんて思っていませんでしたから、ひどく感動しました」。取締役の大澤道さんは、ベンチャーに合流するきっかけとなった出来事をそう振り返りました。 「大澤さんも渡邊さんも、私の自慢の学生でした。この2人がいたから私が蒔いた種が(実用化という)花を咲かせることができた。私1人では絶対できなかったこと。いずれ研究室の後輩たちも合流していけたらいいなと思っています」と金准教授。実は、協力企業である亀山製絲には信州大学卒業生や同じ研究室の後輩も働いているのだとか。金准教授のナノファイバー研究に対する情熱、そしてそのもとに集う学生たち、研究者、企業人など、学内外に広がるさまざまな関係者のネットワークは、同社にとっても大きな資産。こうした人のつながりも大学発ベンチャーのメリットだと思います。ナノファイバーが持つ多様性は、未来の世界の可能性を無限大に広げてくれる…長い歴史のあるナノファイバーですが、量産化のステージをクリアしたことで、その製品は加速度的に進化しているように感じました。 の量産化・製品化はいた!専門外の領域でも相談できる研究者がいる。大学発ベンチャーのメリット性…ナフィアス。(※2)多様な材料(主にポリマー)の溶液をシリンジ(注射器)に入れ、高電圧をかけることでノズルからナノファイバー形状へ紡糸する作成方法。国際ナノテクノロジー総合展 2018.2月 東京ビッグサイト金准教授が持つのは量産化したフィルター素材のロール。右にある衣服もナノファイバー試作品。空気は通して水は通さないスグレもの。2013年信州大学大学院総合工学系研究科生命機能・ファイバー工学専攻(博士課程)修了。2014年信州大学繊維学部特任助教に就任。2015年に(株)ナフィアスを立上げ、現職に就任。座右の銘は「初志貫徹」と「臨機応変」。(株)ナフィアス 代表取締役 信州大学繊維学部特任助教渡邊 圭 氏2000年名古屋大学大学院工学研究科物質制御工学専攻(博士課程)修了。全北大学(韓国)研究員などを経て、現職。蘇州大学(中国)客座教授を兼務。信州大学学術研究院(繊維学系)准教授金 翼水(キムイクス) 10
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