NOW110号
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しても効果が無かったのに、「発酵キョウバク」を飲んだこのとき、初めて血圧が下がるという体験をしました。これはすごい!と思いましたね」。発酵キョウバクとの出会いで小山社長の人生が変わった瞬間でした。「『発酵キョウバク』の研究に着手したのが2001年位だったので、かれこれ15年近く取り組んできたことになりますが、2016年にようやく、この『発酵キョウバク』を上回る量の『コリンエステル』がナスに含まれていることを発見しました。長年研究してきたので『発酵キョウバク』には愛着もあったのですが、ナスの含有量があまりにも大きかったので、すぐにナスに切り替えて研究を進めました」(中村准教授)。ナスに切り替えた理由は、そばスプラウトでは値段が高く、どうしてもコスト面で実用化に大きな壁があったからだといいます。ナスならその心配は不要です。さまざまな文献や研究論文を探すうち、ナスにもコリンエステルが含まれていることはわかったのですが、その量までは解明されていなかったため、まずはその調査から着手し、結果は、先述の通りでした。結果が出ると同時に、中村准教授はこの研究成果でベンチャーを立ち上げることを思い立ちます。現在、高血圧で悩む方は日本に約6,000万人いるといわれ、加速する社会の高齢化に伴い、高血圧に有効な機能性食品の需要はますます高まっているからです。ストレス社会の現代、抗ストレス作用のある機能性食品市場の規模は約923億円にも上るとされています(※1)。「高血圧の薬はたくさんありますが、長期間服用すると副作用もある。でも「コリンエステル」は神経を介して作用し体内には吸収されないため、副作用がまず無いと考えています。何よりナスで得られた数字が大きなものだったので、これなら世に出しても勝負できるなと思いました」(中村准教授)。また「自身で得た効果を社会に還元し、多くの人に同じように体感して欲しい」という、小山社長の実体験と熱意も、ベンチャー設立を推し進めました。現在、中村准教授が旗振り役となり、信州大学を中心に、ナス生産量全国1位の高知県や東京都の各研究機関、企業などが参画した「ナス高機能化コンソーシアム」を組織し、生産から研究、食品製造までの事業化を進めています。(株)ウェルナスはその協力機関として、ナスの加工食品の試験販売や普及を進める役割を担います。すでにこのプロジェクト(※2)で、ナスの粉末をはじめ、商品化が近い製品もいくつか生まれており、2018年から試験販売を始める予定です。大きな期待がかかる“ナス”ですが、小山社長は「ナスだけに固執はしない」といいます。「私に『発酵キョウバク』やナス以外の機能性食品が効かなかったように、ナスでは効果がない方も世の中にはいるはずです。その方には別にフィットするものが必ずあるはず。それをお届けできなければ意味がないと思っています。将来的には、その人に最適な機能性食品は何か、情報を見える化して、一人ひとりの疾病リスクを“食”で予防しながら健康維持をサポートする…そんなヘルスケアサービスを実現したいと考えています」。小山社長自身の経験と想いに裏打ちされた、ウェルナスの経営ビジョンです。中村准教授も「ベンチャーだからこそできることだし、やる意味があることだと思います。これも、ずっと研究に携わってきた彼だからできること。それでも、リスクをものともせず、可能性があったら賭けようとしているので、すごい男だなと思いますよ」と、教え子の挑戦を後押しします。今ベンチャーは、起業したばかり。マーケットの需要を探りつつ、プロモーション戦略などを通じて、じっくり会社の価値を上げるアプローチが続きます。信州大学発ベンチャーが未来のヘルスケアのあり方を変える…そんな日も遠くはないかもしれません。なんと普通にスーパーに売られている降臨!ス”2010年信州大学大学院農学研究科(修士課程)修了、2013年信州大学大学院総合工学系研究科(博士課程)修了、2013年信州大学農学部応用生命科学科博士研究員、2017年より現職趣味はナスグッズ集めとドライブこの実験室でナスの「コリンエステル」含有量が解明された…優れモノの分析機器でも知っている野菜のひとつですが、なんと意果を持つ「コリンエステル」という成分が多量にヘルスケアの在り方を劇的に変えることになるウェルナスの代表取締役小山正浩社長と、その浩蔵准教授のお二人です。あっと驚く研究成果をも信州大学農学部発ベ実用化を見据えて“ナス”にスイッチング目指す未来のヘルスケアは究極の“パーソナルケア”中村浩蔵准教授(左)と小山正浩社長(右)。中村准教授の手前の瓶が「発酵キョウバク」、左手に持つのがコリンエステルを抽出した粉末サンプル、小山正浩社長の持つ袋が、商品化間近の製品サンプル 品開発※1)出典:健康食品サプリメント市場実態把握レポート2016年度版、インテージ平成24年-26年度国民栄養調査報告、厚生労働省※2)農林水産省「革新的技術開発・緊急展開事業」採択(2017~2019年度)株式会社ウェルナス 代表取締役農学博士(食品機能学)小山 正浩氏08

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