NOW110号
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10イラタント流体のひとつです。図は、せん断速度(流れる速さ)によって粘度のある物質がどのように変化するのか、その特性ごとに分け表したものです。まずニュートン流体とは、いわゆる水やアルコールのような液体が該当します。せん断速度が変わっても粘度は一定です。ビンガム流体とは、私たちがよく使う歯磨き粉のような流体のこと。チューブをゆっくり押せば(せん断速度が小さければ)粘りが強く、速く押せばと急激に粘度が下がります。次に、擬塑性流体は血液のような流体のことです。ゆっくり流れるとき(せん断速度が小さいとき)は粘度がありますが、速く流れれば流れるほど、徐々に粘度が下がります。そして、ダイラタント流体は、その他の流体とは異なり、せん断速度が大きいほど粘度が大きくなる、つまり硬くなっていくという性質を持っています。逆にせん断速度が小さければ粘度も小さく、だらりと流れてしまいます。このような「高いせん断速度が加わった瞬間だけ硬くなる」という性質は、衝撃吸収材として適用できると、各方面でさまざまな研究開発が行われています。小林教授が開発した繊維複合流体は、先述したダイラタント流体に「繊維(親水性の動物性繊維、現状では馬毛)」を組み合わせているという点にも、大きな特徴があります。繊維を封入することで、力を加えると、狭い繊維間でダイラタント流体が動きます。そのため、何も封入しない状態よりもせん断速度が増し、剛性変化の範囲を拡大させることができるのです。また繊維の方向によって、その特性に変化を持たせることもできます。例えば、封入した繊維方向に曲げると曲げにくい(硬い)、繊維に沿って曲げると曲げやすい(柔らかい)といった特徴を出すこともできます(写真※1)。つまり、曲げ方向によって、衝撃吸収の力を変化させることができるのです。この特性を活かせば、さまざまな商品開発の可能性が生まれてきます。例えば、プロテクター。ひじの関節部分に使用すれば、曲げてはいけない方向には曲がらず、曲げたい方向には楽々曲がる―、など関節を守りながら動きやすいプロテクターを作ることができます。2つ目の特徴は、繊維密度を制御する、つまり意図的に不均一にすることで、部分ごとの強度をコントロールすることができるという点です。例えば、人が装着するヘルメットならば、頭を守る頭部周辺はいざとなれば最も衝撃に強く、それ以外の箇所は比較的柔らかい、など、目的や用途に応じた硬さや曲げの方向を、繊維の密度を変えることで容易に制御することができるのです。通常は装着すら忘れていても、突然の衝撃には強い。車のシートベルトのように、通常は意識していない存在でありながら、いざとなったら大切な体やモノを守るため機能する…そんな用途はたくさんありそうな気がします。例えば、高速走行時のみ機能する速度抑制装置、強い衝撃のみに対応する緩衝材――、そんな新しい発想で用途開発を考えるといろいろな製品が浮かんでくるのではないでしょうか。衝撃吸収や剛性制御での新しい製品化にご興味にある方は、ぜひ信州大学発の特許「ダイラタント流体を用いた複合材料」を検討してみてください!繊維複合流体の特徴①衝撃吸収の力が曲げ方向で異なる繊維複合流体の特徴②繊維密度を制御することでさらに変化が生まれる通常は存在すら忘れていても突然の衝撃に機能する…アイデアで広がる用途素材!繊維の方向には曲がりにくい(硬い)はわかりにくいが、入っている繊維の方向で曲げる力が変化する。特に例えば関節など、曲げてはいけない方向に機能するプロテクター、車などの高速走行時に機能する速度抑制装置…用途はアイデア次第だ。ゆっくり泳ぐ金魚の尾びれは、もちろん柔らかい。いろいろな「流体」がある。水=ニュートン流体を基本に考えるとわかりやすい。(図)本物の魚のように水槽内で泳ぐ、魚のフィンの模型。揺動速度と推進力のデータがとれる。片栗粉で作った「ダイラタント流体」。速く動かすと固まり、放置すると自然と溶けていくように液体になる。フィンの内部には繊維の束と片栗粉を溶かしたものが入っている。体」

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