2018環境報告書
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38■ 高原野菜の生産現場八ヶ岳の東山麓で標高約1300m、高原野菜の一大産地として知られる野辺山高原。岡部助教の研究室がある野辺山ステーションには、19haの農場と9haの演習林があり、宿泊施設が整備されている。広大な農場では、キャベツ、スイートコーン、ベニバナインゲンなどが栽培され、学生が高冷地の生産現場などを体験する多くの実習が行われている。また、文部科学省から教育関係共同利用拠点に認定されていることから他大学が利用できるプログラムもあり、夏期には宿泊を伴う演習が目白押しだ。助教は、それらを主力となって指導し、運営している。「出荷には出荷基準がある。こうしないと等級がさがってしまうなどの現実を知って、農家がとても細かな気配りをして生産物を出荷していることを感じてほしい」と農家の作業や目線を伝えることも大切にしている。農家の視点は、助教が研究を進める上でも重要な意味を持っている。■ キャベツの連作障害を軽減する同じ野菜を、同じ場所で作り続けると連作障害を起こしやすい。キャベツなどアブラナ科植物に発生する根こぶ病は、病原菌が土中に生存し、根に感染して発病すると植物の生育が悪くなり、ひどいものは結球しなかったり、枯れたりする。かつては野辺山でも深刻な被害が起きていた。現在、農家は薬剤散布などで予防しているが、助教は環境に負担をかけずに、作付け体系の中で軽減できる方法を探っている。これまでに助教は、イネ科の植物ソルガムを緑肥として利用すれば、根こぶ病が軽減し、キャベツも十分に生育させられるという研究報告もしている。しかしソルガムを緑肥にする場合、8月上旬に畑に鋤き込んで分解させるため、その年は収穫できる作物を育てられない。効率の良い土地利用を考えると、農家にとっては導入しづらい側面があった。そこで助教は、周辺地域でも栽培されている同じイネ科のスイートコーンの利用を試みた。スイートコーンを収穫した後に、その根のみを鋤き込む方法で輪作する試験を2011年から開始した。■ 効果は、キャベツ品種によって違う試験は、キャベツの連作で根こぶ病の病原菌に汚染されている圃場において、キャベツの連作区と、スイートコーンを植えた翌年にキャベツを植えるスイートコーン後区との比較で行われた。キャベツを収穫する時に、株全体と結球の重量を計測し収量を、その後根を抜き取り発病の程度を評価した。スイートコーン栽培の後に作付けするキャベツを一品種のみで実施した当初の試験では、スイートコーン後区は、連作区より生育がよく、根こぶ病の発生も抑えられていた。次にスイートコーン栽培の後に作付けするキャベツ品種により効果が異なるかを見ようとキャベツ41品種を用い試験をすると、品種間で差異が認められた。だが、農作物は天候に大きな影響を受け、年ごとに作物の出来具合が変わるため、1~2年では評価できず、「何回も繰り返し試験をする」必要があるという。■ 農家に使ってもらえる技術を最終目標とするのは「農家さんに使ってもらえる技術にすること」。そして「この地でできること、この地の農業から課題を見つけて研究に取り組み、その結果を生産現場にフィードバックできるようにしたい」という。生産物の出荷ができる規模の広い圃場を使って研究することで、農家と同じ視点を持つこともできる。農家の現実に則した技術でなければ、使ってもらうことはできないだろう。助教は農場で農家の現実を肌で感じながら、少しずつ進む方法を選択している。研究室の学生たちも草取りをして、ベニバナインゲンには支柱を立て、作物の面倒を見ながら研究している。ここから生まれる愛情は、持続可能な農業を支える力にもなっていくだろう。岡部 繭子2005年 東京農業大学大学院農学研究科 博士後期課程修了2005年 東京農業大学大学院 学術フロンティア共同研究 博士研究員2008年 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究 機構食品総合研究所農研機構特別研究員2009年 信州大学農学部助教学術研究院(農学系)助教岡部 繭子[農学部 農学生命科学科 植物資源科学コース]環境保全と農家の視点でキャベツの連作障害を回避する

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