2018環境報告書
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37■ 「相乗りくん」に注目茅野准教授の守備範囲は広くて深い。環境社会学を中心とした研究領域の中で 環境政策から、森林資源、自然エネルギー、放射性廃棄物問題等々、様々な環境保全の市民活動にも参加し、時には行動を共にしながら問題解決の道を探ってきた。2017年度は上田市のNPO法人が実施している太陽光発電事業の「相乗りくん」に注目。「全国にない上田市民によってつくられたしくみ。小規模ながら順調に拡大しているところが興味深い」と学生と共に、その成立や過程、課題について、活動参加者に聞き取り調査をし、同時に上田市民1000名を対象に自然エネルギーに関する意識調査を行った。■ 家主と出資者のパネルが“相乗り”「相乗りくん」とは個人宅や事業所の屋根の上などに、家主である「屋根オーナー」と出資者である「パネルオーナー」のパネルを“相乗り”させ、発電し、売電を行うユニークな事業。屋根オーナーは、自分だけで設置するよりも設置費用が抑えられ、パネルオーナーは10万円からパネルが設置でき、10年で設置費用以上の売電収入が見込まれる利回りがある。屋根オーナーは上田市周辺に限られるが、パネルオーナーは、全国どこからでも参加が可能。太陽光発電に興味はあるが、集合住宅でパネルが設置できない…という思いのある人などが参加しやすくなっている。■ ネットワークと拡大性のポテンシャル調査から見えてきたのは、参加者は何らかの市民活動の経験者が多く、当初から参加していた人々のネットワークを使って拡大してきたことや、移住者でも地域活動をしやすい上田市民の寛容さだった。また敷居が低く、地域の自然エネルギーを地域で利用できる理想の形としてとらえ、発電の主体者として楽しみや手応えを感じているという姿が浮き彫りになった。参加者が語る活き活きとした市民活動の様子や、パネルオーナーが屋根オーナー宅に自分のパネルを見に来るといった交流の話から、准教授はあらためて「相乗りくん」のポテンシャルを感じたという。「人口減少問題などを抱える地域にとって、環境保全型の事業を継続していくには、地域の中だけの活動では限界があるのです」。地域資源を活かす取り組みでありながら、地域に閉ざされず、大都市圏に多くのパネルオーナーがいる「相乗りくん」。地元のネットワークを活かして、さらに全国にネットワークが拡大していることに大きな可能性を見た。■ 方法論として一般化するアンケート調査からは、エネルギー問題への関心が高く(85.1%)、一方、大規模な太陽光や風力発電事業については否定的な評価が多いことがわかった(図1)。特に立地については、住宅・事業所の屋根や空きスペースへの設置を肯定する考え(94.5%)に対して、山間部の森林を伐採して設置すべきでないとの回答が85.3%(できればを含む)と顕著な数字になった。近郊に多数のメガソーラーを見ている上田市民の回答である。自然エネルギーの導入は、小規模分散型が鍵を握る。准教授は「相乗りくん」のしくみは、風力やバイオマスなど、他の自然エネルギーでも活かせると、課題や強みや弱点などを明らかにし、他地域でも活かせるよう方法論として発信していく予定だ。ただし、「資金を集めることも含め、何が地域や個人にとって合理的なのかは、かなり多様。普遍的に言える部分と、オーダーメードで地域の文脈に合わせていくことが大切」とのこと。それぞれの地域に暮らす人々が話し合い、良い方法を見つけて活動していく。准教授は「その実践を研究者として、これからも支えていきたいと思っています」という。茅野 恒秀2001年 法政大学社会学部社会政策科学科卒業2001年 財団法人日本自然保護協会勤務2003年 法政大学大学院社会科学研究科修士課程修了2009年 法政大学大学院社会科学研究科 博士後期課程単位取得退学2010年 岩手県立大学総合政策学部講師2012年 博士(政策科学)2013年 岩手県立大学総合政策学部准教授2014年 信州大学人文学部人文学科准教授「相乗りくん」第一号の屋根(上田市内)聞き取り調査(上田市内)図1 大規模な再エネ事業に対する評価産業振興、雇用、活性化につながる景観になじまない利益を地域に還元できる自然生態系に悪影響地球温暖化対策に有効知らないまま開発が進むことは不安0%20%40%60%80%100%10%30%50%70%90%■ そう思う ■ ややそう思う ■ あまりそう思わない ■ そう思わない学術研究院(人文科学系)准教授茅野 恒秀[人文学部 人文学科 文化情報論・社会学]自然エネルギーを地域社会に活かすために上田市「相乗りくん」の調査から

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