2018環境報告書
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36■ 諏訪湖の浄化をめざして1960年代、急速に汚染が進んだ諏訪湖の浄化対策に長野県が取り組みだして以来、信州大学でも多方面からの研究活動が取り組まれてきた。豊田准教授のテーマは諏訪湖の“水の動き”を解き明かすことだ。湖の水は、風・河川の流出入・熱によって、動きが生まれる。魚が大量死するような貧酸素水塊(酸素が少ない水のかたまり)の出現や解消には水の動きが大きく関わっている。水の動きは、諏訪湖の浄化対策を考える上で欠かすことができない情報となる。■ 諏訪湖の水は回っている2004年10月、准教授はボートに超音波の流向流速計と風向風速計を取り付け、学生たちと共に諏訪湖の水と風を同時に観測した。諏訪湖をほぼ4分割する3本の線上に、合計26の観測地点を設定し、諏訪地方に多い西北西の強風(最大9.2m/s)が吹き続ける中で3時間観測を続けた。当時、湖上風は一様と考えて湖水の動きを解析するのが一般的であったが、准教授たちの観測結果は、あきらかに一様ではなかった。湖の北東部では、風が弱くなる。方向も西北西、北東、北と観測地点によって違いがある。もしかしたら湖水の流れは循環しているのではないかと、流向流速の観測結果を見ると、湖の東側で反時計周りの水平循環流があることを確認した。動きは表層から底層まで全層に及んでいた(表層部分図1)。その後、准教授は気象モデルを用いて、諏訪湖周辺の地形・土地利用分布等を考慮した風の動きをシミュレーションし、観測結果と同様の結果を得ている。ちなみに微風時、循環流は発生せず、水の動きは定まっていなかった。■ 泥の巻き上げ、繁茂するヒシの影響強風による風波や、洪水時の大量の濁った水の流入は、湖底の泥を巻き上げる。それが再び植物プランクトンの餌となり、水質を著しく悪化させる。研究室では、水流による湖底の泥の巻き上げについても調査した。結果は2m以下の浅いところでは巻き上げがあったが、それ以上深いところでは巻き上げは観測されなかった。また諏訪湖で繁茂するヒシを長野県が試験的に刈り取った際は、ヒシによる影響も調査。ヒシが茂る区域と除去された区域で水温・濁度・流速を詳細に観測している。ヒシの影響によって水は暖められにくく、冷めにくく、濁度が高くなること、加えて沿岸帯で発生する水温低下の原因などを明らかにした。浮葉性植物の影響を水の動きの観点から詳細に観測した研究は、他ではあまり見られないという。■ 貧酸素水塊はどこに出現するのか湖底でプランクトンの死骸をバクテリアが分解する時、水中の溶存酸素を大量に消費するため、湖の底層は貧酸素になりやすい。特に夏季は暖められた表層の水と水温の低い底層の水が混ざりにくく、底層の貧酸素状態が続いてしまうという。しかし、この状況は諏訪湖全域で同じように起きているわけではない。2010年8月~9月にかけて、諏訪湖では湖心に加えて、四方の4地点で溶存酸素の連続観測が行われることになった。結果を見ると、地点によって貧酸素の発生する日数は異なり、微風時の風向きや、気温(水温)の低下が影響していることがわかった。風下では、水面がやや上向きに傾き、底の貧酸素水塊との境界(界面)は、逆に下がるので、風下の観測地点では貧酸素とならない(図2)。風下になりやすいところ、気温が低くなりやすいところは、その分、貧酸素が解消されやすくなっていた。現在は「おおよそ一時的な水の動きについては、解明されてきた」と准教授。今後は「貧酸素水塊の出現と解消について年間を通じて把握できるよう」更なる追究をする。豊田 政史1997年 京都大学大学院工学研究科修士課程修了1997年 運輸省港湾技術研究所海洋環境部 研究官2000年 信州大学工学部助手2007年 信州大学工学部助教2017年 信州大学工学部准教授図1 湖流の観測結果(表層)図2 微風時の界面の動き02環境への取り組み風の観測準備学術研究院(工学系)准教授豊田 政史[工学部 水環境・土木工学科(水工学)]諏訪湖の水の動きを解明する2-2 環境研究

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