2018環境報告書
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33卒業論文理学部 理学科物質循環学コース 土屋 俊雄 諏訪湖におけるヒシTrapa japonicaの アレロパシックポテンシャルの季節変動長野県諏訪湖においては水質改善に伴うアオコの減少に伴って2000年代から現在まで浮葉植物のヒシの過剰な繁茂が問題となってきた。湖沼生態系において清浄な水質が維持されるメカニズムにおいて同じ一次生産者にあたる植物プランクトンと水草の間の光や栄養塩を巡る競合が重要な役割を果たすと考えられている。この競合において植物プランクトンに対して成長抑制効果をもつ二次代謝産物が水生植物から放出されることで周囲の植物プランクトンの密度が抑制されるアレロパシーと呼ばれる現象もみられ、さらにヒシでも藍藻に対する成長阻害物質(ポリフェノール)を複数含んでいることが明らかになっている。本研究ではヒシに含まれる5種類の対藍藻成長阻害物質含有量をLC/MS分析によって測定し、その結果からヒシ生活史におけるアレロパシックポテンシャルの季節変動を明らかにした。一年生浮葉植物のヒシはその形態およびバイオマスが水上での生育期間(5-10月)で大きく変動するが、その成長阻害物質含有量においてもいくつかの物質で大きな変動が見られた。それら含有量の変動をもとにアレロパシックポテンシャルを算出したところ、5月に発芽したばかりのヒシ実生で単位重量あたりでは最もアレロパシー作用が強い可能性が示された。このアレロパシックポテンシャルの強さはヒシ実生の成長やヒシ種子の発芽率に寄与していると考えられる。図 湖沼中の5月のヒシ実生と植物プランクトン 棚田の保全管理に関する 社会学的研究棚田は中山間地域に典型的な耕作形態で、農業生産性の面から平地に比べ劣位にあり、人口減少の現代においては過疎・高齢化による耕作放棄の危機に瀕している。しかし近年、その景観や生物多様性など多面的機能に着目し、観光資源・地域資源としての価値付与の動きが全国的に見られる。千曲市「姨捨の棚田」においても、棚田オーナー制度の導入や耕作団体の組織化など、様々な対策を探りつつ、1999年に棚田として初めて「名勝」に、2010年には「重要文化的景観」に指定された。本研究は、著者が2年次から独自に実施した現地調査をふまえ、環境社会学で培われてきた方法論である「生活環境主義」を基盤に、保全管理の史料と歴史的経過の考証、耕作団体への参与観察調査、千曲市行政及び農家への丹念な聞きとり調査を通じて、「姨捨の棚田」をめぐる環境認識や、そこで営まれてきた住民の生活経験に裏打ちされた生活戦略の変遷を解明したものである。研究の結果、一体的な「名勝」「文化的景観」として見なされるようになった棚田であるが、旧村時代から連綿と続く住民の働きかけと、「条件不利地」として戦後農政に翻弄され、「多面的機能」という機能の付与によって複雑化した外部からのまなざしに対する応答の経過は、区画毎にきわめて多様であることが明らかになった。よって、現在の「姨捨の棚田」は、「生活の場」と「文化的景観」「都市農村交流の場」といった複数のレイヤー(層)が組みあわさった姿として捉えられるべきであると結論づけられる。田植え稲刈り卒業論文人文学部 人文学科 西澤 宏紀卒業論文

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