保健学科_研究紹介2017-2018
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―21―検査技術科学専攻基礎研究から臨床研究応用へ ―分子生物学の探索研究から広がる世界― 基礎研究は生命現象への純粋な興味からおこなわれる無償の行為ですが、不思議にもその成果は病気の原因解明につながる非常に有益なものでした。私は基礎研究からASCおよびPHACTR3を発見しました。現在、ASCは自然免疫の新しいシグナル伝達経路のアダプター分子であることが明らかとなるとともに、それまで原因不明であった自己炎症疾患と関係することがあきらかになりました。また、PHACTR3は細胞運動の調節に関係する分子なのですが、その仲間はがんや心筋梗塞・冠動脈疾患など、ヒトの死因の上位をしめる病気と関係することが示唆されています。さらに、胃炎の原因菌であるヘリコバクターの研究は新たな診断マーカーの発見と感染経路の解明につながりました。 数十年前に誰がインターネットや情報革命を予測したでしょうか。刻々と変化する時代、何が大事だろうかと考えたとき、知識も大事ですが物事を分析的に見る研究マインドがそれ以上に大事です。私は長い研究生活の中で、生物学および医学の常識がくつがえされる様子をつぶさに見てきました。このことは何が正しいかを常に追求し、時代を予測する研究マインドが重要であることを示しています。 すべての病気の原因が遺伝子レベルでわかる時代になってきました。さらに人類はゲノムを変える技術さえ得ようとしています。これらは医療を変える強力な推進力となりますが、「医療が本当にヒトの幸せに貢献できるのか」を考える時代でもあります。生体情報検査学研究から広がる未来卒業後の未来像ASCは信州大学の我々のグループが発見した分子。免疫活性化に関係する重要な因子にインターロイキン-1βと18があるが、ASCはこの活性化に関係するシグナル伝達の中継分子であることがわかった。このシグナル経路はさまざまな外的および内的危険因子(danger signals)によって活性化される。PHACTRは細胞の移動や突起形成に関係する。PHACTR3(緑)は細胞の移動先端部分に分布する。赤はアクチンの分布を示す。基礎的研究は病気の原因解明や診断法開発に役立つ。私の研究と臨床との関連を示した。検査技術科学専攻顕微鏡下に広がる細胞・組織の変化を捉える 病理組織標本にみられる細胞・組織の変化の意味や生物学的態度に思いめぐらすことはとても興味深いことです。現在では、細胞・組織の形態変化の背景にある物質や遺伝子の異常を組織標本上で捉えることができます。私たちは消化管粘膜の上皮細胞に類似した細胞から構成されている腫瘍が消化管以外にも発生することに注目して、その診断に有用な物質や診断の基準を研究しています。ピロリ菌はヒトの胃粘膜に棲息し、胃の悪性腫瘍の主たる原因と考えられていますが、ピロリ菌に似た別種の細菌がヒトや動物の胃粘膜に棲息していることが注目されています。これらの細菌の研究にも取り組んでいます。信州大学医学部医学科卒業後、信州大学医学部附属病院臨床検査部を経て、信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻に着任。太田 浩良 教授九州大学理学部を卒業し、京都大学大学院医学研究科修了。米国NIH留学を経て、東ソー(株)生物工学研究所勤務。その後、京都大学薬学部から信州大学医学部へ異動し、2005年から現職。相良 淳二 教授 正常組織や腫瘍組織において特定の細胞に発現している物質や発生する組織が異なっていても構成細胞が類似している腫瘍群においては発現が共通している物質があります。これらの物質には臨床検査としての利用や治療法に応用できる可能性を秘めたものがあります。ヒト胃粘膜に棲息するピロリ菌類似の細菌による胃疾患の発症機構の解明は胃疾患の治療や予防にも繋がります。 細胞や組織の変化として病気のイメージを捉えられることは、医療のあらゆる分野で大いに役立ちます。また、病気が発生する分子機構と細胞・組織の形態変化の両者を統合して考えることで病気の理解を深めることができます。生体情報検査学研究から広がる未来卒業後の未来像(Helicobacter heilmannii s.s.)(Helicobacter felis) ASC Danger Signals ( NLRP 10 --18 ASC ( ASCPHACTR3ASCPHACTR3 NIH2005 ASC-18ASCdanger signals) PHACTRPHACTR3( ASC Danger Signals ( NLRP 10 --18 ASC ( ASCPHACTR3ASCPHACTR3 NIH2005 ASC-18ASCdanger signals) PHACTRPHACTR3( 胃腫瘍膵腫瘍肺腫瘍子宮腫瘍

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