経法学部研究報告紹介2017-2018
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8応用経済学科応用経済学科データを生み出す確率的な仕組みを、データから推測するための方法を考える企業の財務データ・情報から、イメージに惑わされない企業実態を把握する 現代においては、社会の様々な局面で、証拠(エビデンスとも呼ばれます)に基づいた行動・決定・議論が求められています。これは、「何となく」とか、「今までそうしていたから」とかいった理由に基づく行動等に比べて、客観性があり説得力があるからです。様々な証拠の中でも、適正な方法で集められたデータは、強い説得力を持ちます。しかし、データから何を読みとるか(読み取れるか)は簡単な問題ではありません。特に、さまざまな形の大量のデータが、毎秒(或いはもっと短い間隔で)蓄積されている「ビッグデータ」と呼ばれる状況では、そこから有益な情報を読み取るためには多くの工夫がいります。 企業が公表する財務データや様々な情報を分析することで、企業の経営状況を把握したり、より深く企業の実態に迫りたいときには実際に企業に赴き実態調査やインタビューをすることで会計の仕組みと経営活動との関連を分析しています。私たちは普段、色々なところで様々な企業に関わっていますが、企業への関心や印象はイメージによるものが多いかもしれません。医師は検査結果をもとに治療を行ったり、手術をしたりしますが、会計は財務データをもとに企業の癖や傾向を把握しますし、場合によっては、よりよい経営を目指して、新しい会計システムを企業内部に導入することも行っています。 「データは21世紀の剣であり、それを使いこなせるものがサムライだ。」これは、「How Google Works」という本の中で、Googleの会長が述べた一文です。皆さんは、「データサイエンティスト」と呼ばれる職種を知っていますか。これは、データを集め・分析し、そこから情報を集めるプロセスに関わる仕事を担う人たちの総称ですが、こうした人たちが日本では数万人単位で不足しているとも言われています。「データサイエンティスト」になるためには、統計学の知識は不可欠です。自分が研究している数理統計学は、統計学の基礎的な理論を研究する学問で、データから有益な情報を抽出して、データを生み出すしくみを推測する方法を探求します。数学の道具(微積分、代数学、幾何学、確率論等)も必要としますから、かなり理系的な分野です。データを実際に扱うためのスキル(特にプログラミングによるデータハンドリングの技術)だけでなく、こうした数理統計学の知識も身につけることで、真に優れた「データサイエンティスト」になることができると思います。 会計の研究は大きく分けると理論研究と実証研究の2つに分類されます。実証研究の面白さはデータを処理分析することによって、会計情報が外部の利害関係者などに与えるインパクトなどを明らかすることができる点にあります。会計情報を分析するといった研究以外にも、効率的な経営を行うためにマネジメントをするための会計、管理会計を企業に導入したり、導入後の効果を検証するといった事例研究も行われています。そして、そうした新しい管理会計手法を導入した企業では業績が上がったりするような結果も出ています。 このように会計を利用して企業外部と内部双方の視点から分析する能力を身に着けることができると、業種を問わず、企業の経営計画や戦略の立案、あるいは現場におけるコストマネジメントなど様々な企業経営の場面で活躍することができます。 管理会計・財務会計・会計事例を受講することで、より深く企業を知ることが可能となります。椎名 洋 教授関 利恵子 准教授東京大学法学部卒業。東京大学経済学研究科単位取得退学。経済学博士。信州大学経済学部講師・同助教授を経て現職。明治大学商学部卒業後、2000年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得修了し、同年10月 信州大学経済学部講師として着任。2003年より助教授(現 准教授)、現在に至る。2009年博士(経営学)。専門は経営分析・管理会計。左:会計データをグラフ化すると損益の境目で独特な分布が。その点を詳細に分析したもの。右:実際に企業調査を行った成果。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像1.正規分布の分散・共分散行列の推定に関する研究。特に、固有値が発散した時の分布とその推定への応用。2.正定値行列のなす空間を固有値、固有ベクトルを座標としてみた場合の幾何的な解釈。3.最尤推定量でモデルを推定した場合の予測分布の収束の速さ。4.回帰モデルにおける標本数に関する問題。二つのスピーカーのどちらかから音を出した時に、どちらのスピーカーから出た音かを判別する実験を考えてください。音の広がりが広くて重なりが大きい(左図)場合は、広がりが狭く重なりが小さい場合(右図)に比べて、判別するのが難しくなります。これは、統計学の言葉で言うと、混合正規分布の推定問題となります。主な研究事例 利益数値の分布を調べていくと損益付近で独特な形状を示します。それは利益数値が調整されているすなわち利益調整が行われていることの表れでもあります。実証分析の結果から、問題点が提示されたり、新しい発見があったりします。また経営活動を管理会計手法によって「見える化」することでコスト削減、さらには社員のモチベーションを向上させることにも有用であることがわかってきます。主な研究事例

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