経法学部研究報告紹介2017-2018
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7応用経済学科応用経済学科アジアを学び、アジアに学ぶ…あるいは開発と福祉の相互関係を考える理念を言語化する力を鍛える    1990年代に韓国や台湾などで、政治の民主化に続いて、国民生活を重視する政策パラダイムへの一大転換がなされ、その結果、社会保障制度が一気呵成に整備されました。そのため「アジアの開発と福祉」は、アジア地域研究者のほか、福祉政策関係者らの間でも大いに注目されています。研究動向としては、アジアないし後発の福祉国家形成について、西欧諸国との比較や、あるいは同じアジア域内での相互比較も活発です。 韓国を事例にする理由は、在日コリアンという邪道な行きがかりからでしたが、幸いにも韓国の激動の現代史――植民地からの解放と分断、同族戦争、開発独裁からと民主国家へ――は、国民国家形成と国民生活保障のあり方を考える好個の事例だと確信します。 犯罪と刑罰にかかわる法(刑法)を研究しています。刑法は、生命、身体、財産など、社会に生活している全ての人間が幸せに生きていくための最低限の条件を確保するためにある法です。しかし、その目的を達成するために、刑法はときには、私たちの自由を制限します。例えば、親は子供に食事を与えなければなりません。医師は、担当する患者の治療をしなければなりません。親や医師がその義務を怠ったことによって子供や患者を死亡させた場合、殺人罪と評価される可能性もあります。私は、何かを「しない」ことが、犯罪と評価されるのはどのような場合か、言い換えますと、刑法が私たちに課す義務の限界はどこにあるかを研究しています。・今、アジアとの協働と競争の時代です……韓国・台湾などが工業化するのは1960年代からです。1980年代には中国が、そして今、東南アジア諸国が1つの自由貿易圏を形成しつつあり、インドも開発の時代に入りました。人口危機を迎えた日本にとって、アジア諸国との協働と競争にこそ、新たなチャンスを見出せるはずです。・留学生と親しむ……来年、ゼミは開講30周年を迎えます。この間、留学生がいないことはなく、いつも国際色が豊かです。時には海外にいるOBが訪ねてきてくれたりも。これからもアジア各地にOBを訪ねて行く予定です。・どこでもいい、一歩、日本から出てみよう……昨今、もてはやされる「グローバル人材」。外国語を自由自在に操るなんて、英語が苦手だとそれだけで敬遠したくなりますね(私も下手です)。でも韓国語を独習した経験から、外国(語)は好きになって通じあえると、こんなに楽しいことはないです。好きなスポーツとか音楽とか景色や食べ物、目的は何でもいいし、アジアでなくどこでもいいので、大学時代に一度は外に出てみませんか。 義務の限界をどのように画定すべきかなど、刑法学における課題の多くは、世代や国境を越え、多くの人々に共有されています。その理由は、刑法の根底に、「他人の自由をできるだけ尊重しましょう」という普遍的な理念があるからです。刑法学者として、講義では他人の気持ちを想像する大切さを伝えます。他人を思いやる「共感力」は、会社での働きや家庭の維持など、あらゆる場面において重視されています。 裁判官に判断の指針を提示することも刑法学者の使命であるため、混迷する議論を的確に分析する能力が求められます。刑法学の議論は「甲説と乙説、どの学説が適切か」という形で展開されることもありますが、甲説と乙説との対立点が複数ある場合には、それらの対立点をすべて具体化・言語化することこそが重要です。前述の経験から、講義は、問題をわかりやすく整理する方法、自分の主張を効果的に相手に伝える方法を中心に展開されます。受講生は卒業後、大学院、民間企業、国家機関など、あらゆる分野で活躍できるはずです。・単著『韓国福祉政策形成ノ歴史』2017年、545頁、図書出版人間ト福祉(ソウル、韓国語)【写真・左】・単著『韓国・社会保障形成の政治経済学』新幹社、2016年、749頁【写真・中】なお計10章中、7章の初稿PDFは『信州大学経済学論集』(http://www.shinshu-u.ac.jp/soar/) 第63・65・67号に公開・共著『新興諸国の現金給付政策』宇佐見耕一・牧野久美子編、アジア経済研究所、2015年・保障人的地位の発生根拠:法益を保護するために、刑法はどのような場合に、誰に対して積極的作為に出ることを期待することができるのか。・不作為犯における作為義務の内容:どのような行為を法の期待の内容として想定することが許されるのか。・詐欺罪における告知義務の限界:取引を行う際に、一定の事実を相手に告知しなかったことは、どのような場合に詐欺罪における「欺く行為」と評価されるのか。・広大なアジア、多様なアジア、何よりもアジアは近い!…そもそも日本もアジアの一員です。今をときめくアジアが学びの場です。・ゼミ有志で毎年、海外研修旅行に出かけています。2015年は、韓国・釜山で日韓学生交流。2016年、国際都市・上海では、長野県上海事務所のお計らいで証券取引所【写真・下】やOBもいる県内企業現地法人などへ。争点を具体化した一例を示す図です。不真正不作為犯における作為義務の根拠について、「多元説」と「限定説」という、表面的対立の背後に隠されていた複数の問題点を具体化し、逐一検討する必要があります。争点を具体化する際には、論理的一貫性、具体的事例の帰結、学説の形成過程、社会の実態など、様々な要素が考慮されます。金 早雪 教授蔡 芸琦 助教大阪市生まれ。大阪市立大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科前期博士課程修了、後期博士課程単位取得。大阪市立大学博士(経済学)。1986年より信州大学経済学部にて助手、講師、助教授を経て教授(現職)。台湾にある東呉大学法学部卒業後、早稲田大学大学院法学研究科に進学し、博士(法学)を取得。2016年より現職。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例大韓民国学術院2017年優秀学術図書(社会科学)に選定(2017.5)信大附属中央図書館に寄贈してあります

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