経法学部研究報告紹介2017-2018
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6  応用経済学科応用経済学科データを用いて、証拠に基づく政策(エビデンス・ベースド・ポリシー)の立案に貢献する環境問題への向き合い方を経済学・経営学の視点からデータを用いて考える 経済学の中の一分野として、主に政府活動(国や自治体)に関わる問題を扱う「公共経済学」が専門分野です。特に家計の税・保険料負担の計測や、税制・社会保障制度による再分配効果の評価など、データを用いた分析を行っています。こうした取り組みでは過去や現在の実態を捉えるばかりでなく、世帯の家族形態や収入などのデータに制度内容を適用することで、導入前の諸政策が家計の負担や給付に及ぼす影響もシミュレーションできます。近年、政府で正確な実態把握や有効な政策の選択、またその効果の検証といった目的から、データを積極的に利用して「証拠に基づく政策(エビデンス・ベースド・ポリシー)」を推進しています。経済学に立脚したデータ分析は、こうした「証拠に基づく政策」の立案に貢献します。 「環境問題といかに向き合うか」について、経済学・経営学の視点からデータを用いて研究しています。例えば、地球規模の環境問題として気候変動問題があります。1900年以降の気候変動の原因としては温室効果ガス(二酸化炭素など)が有力で、現在、人類にとって望ましい排出水準を超えて温室効果ガスが排出されている状態です。なぜこのような状態になるかというと、経済学的な視点では、生産者が自らの活動水準を選ぶときに、負の外部効果(市場経済を経由することなく他者に及ぼされるマイナスの影響)が働くためです。この負の外部効果を克服するために、経済学的視点で市場全体から、経営学的視点で企業側から、それぞれ複合的にデータを用いて考えていこうというのが私の研究テーマです。 「証拠に基づく政策」が今更ながらに強調される背景には、PCの能力向上やビッグ・データの蓄積が急速に進んでいることも挙げられます。政府はそうしたデータの蓄積を多くのユーザーで利活用できる環境を進めたいとしています。こうした環境変化から、これまで捉えることができなかった新たなエビデンスが発見され、新たな政策提案につながることが期待されています。 教育では、財務省を受入機関として、政策の企画立案や予算要求を模擬体験する実習(政策企画実習)も行っています。それまでに学んだ学術的知識を活用するほか、実際の政策づくりで求められる実現可能性、効果の目標(KPI)とそれが実現できなかった場合の対応(PDCAサイクル)なども踏まえて提案内容を検討します。 卒業後の進路は公務員ばかりでなく、民間企業など様々です。しかし、データを用いてエビデンスを積み上げ、新しい提案を行うという経験は、どのような進路に進む際にも卒業生の力になるはずです。 現在は、まず企業がいかに温室効果ガス(二酸化炭素)や廃棄物を排出・発生するのかを説明する環境経営モデルを開発・研究しています(図参照)。特に、企業が廃棄物発生を管理・抑制し、同時に費用を削減できる会計手法である、マテリアルフローコスト会計の導入とその調査をしています。調査対象は、主に日本など先進国と、近年生産・消費活動の拡大が著しいアジア地域です(環境研究総合推進費S16)。 次に、環境技術の進歩の度合いとその影響について調査しています。特許データを用いて(環境)生産性を推計するモデルを開発し、国や企業レベルで分析しています。 受講生は、これからの時代にますます重要になる環境問題を、経済学・経営学的に考える視点を身に着けることが出来ます。経済学的視点は公務員などの政策の観点であり、経営学的視点は民間企業でいかに利益を挙げるかという視点です。データ分析の仕方も学びますが、これもこれからのビッグデータ時代の流れに沿う方法です。「政策企画実習」では、受講生が自ら政策を企画立案し、財務省の現役職員を相手に予算要求の模擬体験を行う。また、政策コンテストを開催し、財務省や松本市役所の現役職員(上の写真)や、高校生(下の写真)に自らの提案を発表する。図 企業のマテリアルフローとキャッシュフロー  図は、製造企業一社のマテリアル(実線)とキャッシュ(点線)の流れを示す。左から、企業はMCをかけて、原材料を調達する。ごみ(上側)は、EC&SCとWMCをかけて、発生する。製品(下側)は、EC&SCで作られ、販管費によって顧客に売られ、売上が発生する。この過程で、二酸化炭素(CO2)や直接+間接の温室効果ガス(Scope 1+2)が発生する(※Scope 3はサプライチェーンの温室効果ガス)。 (引用元より修正: Yagi and Managi, 2018)大野 太郎 准教授八木 迪幸 講師2001年一橋大学経済学部卒業。2008年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。同年より財務省財務総合政策研究所研究官。その後、尾道市立大学講師・准教授を経て、2016年より現職。2013年東北大学大学院環境科学研究科博士課程修了、同研究科産学官連携研究員(2013~2014年)、神戸大学社会システムイノベーションセンター(旧社会科学系教育研究府)特命准教授(2014~2018年)を経て、2018年より現職。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像・企業の社会的責任(CSR)行動や環境・社会・企業統治の向上(ESG)が、企業利益に結び付くか・技術生産性としての特許生産性の計測・日本の自動車保有行動の調査・日本の漁業生産性の調査・測定主な研究事例

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