経法学部研究報告紹介2017-2018
5/28

4応用経済学科応用経済学科経済成長と所得格差の原因を探求するつながりと笑顔を育てる地域づくり マクロ経済学を専門に経済成長や所得格差について研究しています。もともと、なぜ日本経済が1990年代以降停滞しているのかを分析していました。そこから「なぜ日本(に限らず先進諸国)で、1950~1960年代に高度経済成長が実現したのに、1970年代以降は経済成長率が落ちたのか?」、「それと同時に1970年代以降、先進諸国で所得格差が拡大した理由は何か?」に関心を持つようになりました。 分析では、理論(仮説)を立て、理論に基づく数理モデルを作ります。この数理モデル(理論値)が現実(実データ)を定量的に説明できるか検証し、理論の妥当性を確認するというアプローチで研究しています。 研究室が挑む社会問題は“高齢者の健康寿命を延ばし孤独死を防ぐにはどうすればよいか”。私たちは、この問題の解決法のひとつとして“つながりと笑顔を育てる地域づくり”を研究しています。 “誰もが、住み慣れた家で、地域で、自分らしく安心して暮らし続けること”は、私たちの多くが望んでいるふつうの幸せです。しかし今の私たちは、ふつうの幸せを達成するのが難しい時代を生きています。その背景にあるのが少子高齢化と人口減少の同時進行です。 ふつうの幸せを保障するしくみのひとつが「社会保障」です。しかし経済成長と人口増加を背景に作られたしくみのために、この問題を根本から解決できません。私たちはコミュニティヘルスを手掛かりに、この問題の解決法を探っています。 上にあげた経済成長や格差の問題は、経済的に重要ですが、それが社会に不安定さをもたらす点で社会的・政治的にも重要であるといえます。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領の誕生なども、背後には、所得の伸び悩みによって没落した労働者階級が不満を抱えたことであるという分析もあります。経済成長や格差の原因を解明することは、マクロ経済学の分野でも未解決の難しい問題ですが、一歩一歩明らかにしていきたいと考えています。 教育では、知識だけでなく社会科学的な考え方も学んでほしいと思います。ゼミでは、学生には、社会科学的な問題について、仮説検証の方法論を身につけてもらいます。仮説を立て、その仮説で現実が定量的に説明できるか検証し、仮説の妥当性を分析してもらいます。将来、重要な意思決定を行う場面で、こうした仮説検証の方法論がきっと役に立つと考えています。 ゼミ生の卒業後の進路は、メーカー、銀行、大学院進学等です。 私たちの研究の軸足は「社会政策」と「社会調査」にあります。 社会政策とは、個人の力だけでは解決ができない社会問題を解決するための公共政策です。社会保障、社会福祉、健康政策、生活問題、地域づくり、教育、ジェンダー、労働などのテーマ群から成り立っており、健康格差問題、高齢社会問題、格差社会と貧困問題、各世代の生きづらさなど、現代的な社会問題の解決を図るための政策科学です。 研究室では、社会政策の考え方を身につけ、解決すべき課題を選び出し、その課題の背景を社会調査の手法で科学的に分析し、解決に向けた政策提言を導き出す研究をしています。 私たちが注目するコミュニティヘルスとは、「自分で生き方を選ぶ自由が認められている」社会関係のなかで、「客観的にも認められる健康な状態で生活を送る」ことができる地域社会の営みのことです。私たちの研究の未来は、こうした地域社会を創り出すことにあります。 研究室の卒業生は、市町村自治体の職員、NPOの職員として、政策提言に向けた基礎調査や地域づくりに主体的に取り組む仕事に就くことが期待されています。 1970年代以降、アメリカにおいて、最もお金持ちの人達の所得が国全体の所得に占める割合が増えています。人口の1%の高所得者の所得が、国全体の個人所得に占める割合を、「所得上位1%シェア」といいますが、これが増えているのです。これは高所得の人達とそれ以外の人達との格差が広がっていることを示しています。 私の最近の研究では、この現象を1970年代以降の税制の変化 (累進所得税の減税など)で説明する理論を立てて、数理モデルを作りました。数理モデルの値(理論値)と現実(実データ)を定量的に比較し、この理論で所得上位1%の変化をある程度説明できることがわかりました(上の図を参照)。アメリカの所得上位1%シェアのデータと理論値青木 周平 准教授井上 信宏 教授東京大学教養学部卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程を修了し博士 (経済学) を取得。財団法人総合開発研究機構 (NIRA)、一橋大学イノベーション研究センター、同経済学部を経て現職。東京学芸大学教育学部を経て、法政大学大学院社会科学研究科、東京大学大学院経済学研究科で経済学と社会調査法を学び、1998年4月に信州大学経済学部に着任。2011年9月から教授。専攻は社会政策。コミュニティヘルスに注目している。上の図は“誰もが、住み慣れた家で、地域で、自分らしく安心して暮らし続けること”ができる地域を作るためのコンセプトを示しています。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例 2015年から信州大学経法学部のある長野県松本市(人口24万人、高齢化率27%、35行政区)と協力して、“つながりと笑顔のある地域づくり”を実践研究しています。 これは、松本市の各行政区に、行政職員や医療・介護・福祉の専門職、地域住民の皆さんと協働で「地域包括ケア」と言われるコミュニティヘルスのある地域社会を創設する取り組みです。この取り組みには、研究室に所属する学生も積極的に参加しています。主な研究事例

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る