経法学部研究報告紹介2017-2018
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23総合法律学科総合法律学科家族にかかわる法制度を学ぶ意思実現のための契約とそれを取り巻く社会の関係を考える 市民の生活関係を司る法律に「民法」がありますが、その中に「親族」「相続」という編があり、これらは一般に「家族法」と呼ばれています。人は、生まれてしばらくは親に扶養され、成長して異性と結婚し、子をもうけ子を扶養し、その間に家族が亡くなるとその「遺産」を受け継ぎ、最後は自分が遺産を残して家族と別れを告げます。このような家族生活のあらゆる場面につき、成立・効果を定めたルールが家族法です。「法律は家庭に入らず」との言葉通り、家族法は、家族が円満に生活する限りはあまり前面に現れることはありませんが、衝突やトラブルがあって相互間で解決できない問題が発生したときに、その問題を解く材料の一つとして機能します。その適正な解釈・運用について深く学んでいきます。 市民社会における市民相互の関係を規律する民法、その中でも特に契約に関する分野(いわゆる契約法)を研究しています。 われわれは契約を締結することにより自らの生活関係を形成しています。そのため、社会にとって、契約は非常に重要な制度といえます。多様な人々が存在し、社会の構造が複雑化している現代において、当事者意思の尊重、法的安定、弱い立場にある契約当事者の保護などを勘案した規律が、契約に対しては求められています。これらの観点から、フランスの法制度を参照しつつ、契約法の抱える現代的課題を明らかにし、その課題を解決するための法理論の構築に取り組んでいます。また、研究を通じて、法的紛争の事後救済だけでなく、発生予防に貢献したいと考えています。  家族法は、誰でもが必ず所属する家族にかかわる法領域であるので、その現状や課題を学び、課題に向き合っていくことは、必ず皆さんの将来に役に立ちます。 もともと法律というルールは、自然法則などと異なり、当該社会の価値観に根ざしており、価値観が変われば自ずとルールも変貌しますが、特に昨今、「家族」をめぐる価値観大きく移り変わってきています。同性婚を認める、生殖補助医療技術を用いて子をもうけることを認める、生物学的には何のつながりのない者同士に親子関係を認める、などの動きがそれで、これらと家族法がどう向き合っていくかを考えることは、家族の一員として生活する皆さんにとってとても有意義なものとなるはずです。 家族法の知見と直結する職業は、法曹や家庭裁判所調査官、研究者などそれほど多様ではありませんが、家族間の紛争を具体的妥当な解決へ導くための思考を磨くことは、皆さんが卒業後どのような進路をとる場合でも、必ず自分の人生を切り開く力になるはずです。 契約は、通常、対立する利益状況にある二当事者間で締結されるため、各人の利益の考慮が必要となり、その結果、当事者の生の意思が尊重されないことがありえます。また、当事者の意思の内容通りの法的効果を認めることが、公の秩序や善良の風俗と相容れない場合が生じえます。このときにも、相対立する法的利益・法的価値を考慮して結論が導き出されなければなりません。契約法の抱える現代的課題は、法的利益・法的価値の対立に起因するものが多いといえます。この現代的課題を解決するための法理論は、契約当事者をはじめ、契約の影響を受けうる、利益状況の異なる人々がウィンウィンとなる方法を創造することに資すると考えられます。 契約法のみならず、法とは社会のさまざまな利益・意見の対立を調整する1つの手段であり、法学を学ぶことにより、相対立する利益・意見を調整するためのリーガル・マインドが養われます。このリーガル・マインドは、法律家だけでなく、公務員や民間企業に勤める人がその業務を遂行する際に役立つ能力といえます。 諏訪の末子相続と北信濃の均分相続-河合曽良と小林一茶の場合-(信州大学法学論集、27:115-178 2016、共著)Lawrence v Gallagher [2012] EWCA Civ 394 −シビルパートナーシップ解消に伴う財産の分配−(信州大学法学論集、 25:71-81 2015) 内縁関係の解消と居住用不動産の利用(2) : 死亡解消における非名義当事者の保護を中心に(信州大学法学論集、21:127-146 2013)法律学基礎演習Ⅰの授業風景。カツラ製造販売会社Aと同Bの間の違約金の支払いをめぐる民事事件をゼミ員とともに検討しています。左:日本の民事法等に関する法令集。右:フランス民法典に関する法令集。契約成立過程における利益等の対立状況。宗村 和広 教授山代 忠邦 准教授青山学院大学法学部卒業、専修大学大学修士課程院法学研究科私法学専攻修了(法学修士)、同大学院博士後期課程民事法学専攻単位取得退学、信州大学教養部講師、同大学経済学部講師・助教授、同大学大学院法曹法務研究科教授を経て現職。京都大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻専門職学位課程修了(法務博士)、同研究科法政理論専攻博士後期課程修了(博士(法学))、同研究科特定助教、信州大学経済学部准教授を経て現職。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例

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