経法学部研究報告紹介2017-2018
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20総合法律学科総合法律学科地方自治:日本の地方自治の不思議を解明するあらゆる人が関わる税を知り、あらゆる人が影響を受ける税の法制度を考える 私の専攻は「地方自治論」です。「朝、目をさまし、顔を洗い、食事をし、トイレで用を足す。」というふうに始まる私たちの生活は、都道府県や市町村の提供する行政サービスに支えられています。顔を洗うにも、トイレを使うにも上下水道がなければできないわけですが、上下水道を建設し、それを管理するというサービスを主に市町村が提供しています。私たちの生活の安全を守る、というのも、やはり行政サービスということになります。「地方自治」とは、一定地域の住民が、国の法律と中央政府の制約を受けつつも、このような地域の公共的な事柄について住民が自主的に決定し処理することです。これが、私の主な研究対象です。 税金に関するルールを研究する租税法を専門としています。 租税法の中でも、個人の所得に課税する所得税において所得獲得活動によって生じた支出の取扱いを研究しています。特に大学や大学院における高等教育によって蓄積される人的資本をいかに租税法上に反映させるかという観点から、教育支出の資産化および償却の可能性に関心を持っています。人が教育を受けて能力を高めるという行為に対して、その価値を人的資本として把握し、その教育支出を租税法において控除するという仕組みにより、生涯にわたる学習や社会人の学び直しの促進を税制面から支援することができないかと考えています。 「地方自治論」はきわめて地味な研究分野です。事実、上記のような行政サービスは日常生活に必要不可欠なものであるにもかかわらず、私たちは特に意識することなく享受しています。そうした事柄を研究することに、「それって何の役に立つんですか〜?」などと問われれば、まずは「役に立たないでしょう」と返答します。ちなみに、一般社団法人日本経済団体連合会の企業会員は新卒者採用にあたって専門的な知識を習得していることをほとんど重視していません。最も重視しているのは「コミュニケーション能力」です。コミュ力を論理的思考力と解釈することができるならば、先の返答に次いで、学生にとって「地方自治論」の「研究の未来」(あるいは「卒業後の将来像」)はコミュ力を修得する機会にあると教示することにします。(地方自治に限らず)重要であるけれども地味な事柄から、どのような問題を発見し、情報を収集・分析して、その原因を解明し、そしてその結果を論理的に説明することができるようになる訓練の意義は決して小さいものではないでしょう。 租税法は、みなさんの生活のあらゆる場面において、現在も将来も否応なく関わりを持つことになる法分野です。給与を得ても、物を売っても買っても、様々な税に関わらざるをえません。税がかかるということが、人々の行動に影響を与えることもしばしばみられる現象です。個人でも、税金を考慮せずに行動していると、思わぬ税を負担しなければならないことがあります。ましてや、大きな取引を行う会社では、税負担を考えずに事業上活動を行うことは、かなり危険だといってもよいでしょう。租税法を知り、税に対する対応や社会制度を考えることは、現代社会を生き抜く上で必ず直面する要素の1つを垣間見ることであり、非常に有益です。 教育面においては、税務署の協力を得て、税務調査や内定調査あるいは税の徴収過程等を模擬的に体験する実習を行っています。大学で学んだことが実際の社会においてどのように動いているのかを知ることのできる絶好の機会となっています。卒業後どのような進路を選ぼうとも、必ずや役に立つことでしょう。 日本の地方自治にはきわめて不可思議な側面があり、それは広報紙の配布、防犯灯の維持管理、ごみ集積所の設置・管理等、行政サービスの一部を法的には市町村とは全く別の任意団体(町内会、自治会等)に処理させているというところです。このような現象はいわゆる主要先進国には見ることができません。この現象の近年の動向(上記サービスの直営化等)とあわせて、この不可思議を解明するために研究を重ねているところです。左:安曇野市の広報紙右上:弘前市の防犯灯管理シール右下:某市のごみ集積所税務署の協力により行われている税務実習の様子です。上:喫茶店に客として出向くという状況設定にて内定調査を体験。下:徴収の一環である差押えを模擬的に体験。沼尾 史久 教授橋本 彩 講師早稲田大学政治経済学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科(修士)修了、同(博士)退学、財団法人東京市政調査会主任研究員、信州大学助教授を経て現職。京都大学法科大学院(法務博士)、同大学法学研究科法政理論専攻博士後期課程 (博士(法学))修了後、信州大学経法学部助教を経て、現職。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例

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